第4話 役目 -defense-
僕らの役割は色々ある、だがその全ての根底にあるのは「人を守る」事だ。
生存域守護線にはレールガンなどの兵器が配備され、接近する敵を迎撃する。
それこそ大気圏外から再突入でもしてこない限りはどんな高所まで浮遊しても、衛星とのリンクによって狙い撃ちだ。
だから激戦区や大群で敵が攻めてきた時でもない限りは魔法少女が部隊単位で派遣される事は少ない。
とはいえ、絶対出ない、という事もない。
何事にも例外はある。
例えば新装備のテストを行う場合、新人魔法少女の実戦経験を積ませる場合などはあえて迎撃システムを使わず魔法少女が戦う事もある。
今日の僕らがそうだ。
澄み渡る青空から灰色の大地を見下ろす。
「スバル、衛星からのデータでは敵は中型が地上に3体だ。だがこの前の様に地下から攻撃してくる可能性も考え、戦域に入ったら」
「わかりました」
この10年で、人類が生存競争の中で進化し続けてきた様に、敵も学習し、それに合わせた行動を取ってきた。
監視の目である人工衛星を狙った攻撃や、海中に逃げ込み核攻撃を凌いだり、こちらの戦闘を遠目で観察し、群に情報を持ち帰る諜報活動、索敵、小型化による隠密化。
特にここ3年は戦術を理解した動きをする群も珍しくなくなってきたという。
前の市街地への攻撃の様な地下への浸透といった行動もまた、進化と言えるだろう。
当然、それに対応する為に新型のレーダーの開発・配備が各地で行われている。
E.L.Fと日本政府の部隊が交代で設備の更新作業の完了まで、作業員・技術者などを守る為に魔法少女を部隊単位で出動させている。
その中で僕らの役目は接近する敵を早期に始末する事と、自分達の戦闘データの採取、そして早期哨戒の三つだ。
何事にも絶対はない、監視の目をすり抜けてくる可能性を少しでも減らす為に僕らはいる。
「もうすぐレールガンの射程内だ……行くぞ、スバル」
「……はい!」
かつてここには街があった、だが繰り返される戦いでその跡形はない、あるのは人類と敵の戦いで穴だらけとなった灰色の戦場だ。
そこに浮かぶのは3体のクラゲ、敵だ。
プラズマよりも長い射程を持つレールガンは小型化してもなお強力な武装だ。
装弾数や連射性こそプラズマに劣るが、大体の敵ならば一撃で貫通粉砕できる。
「――見えた」
それは僕とスバルのどちらが言ったかさえ、わからない程に自然な同調。
引き金を引くとレールガン特有のスパークと共に腕に衝撃が走り、即座に敵が爆ぜ、大地に穴があく。
いくら低反動化・小型化したとはいえその威力相応の反動は完全に殺せない、人間が使う武器ではないとつくづく思う。
どう見ているのかは相変わらずわからないが、光線が放たれてくるのでそれを予測して回避行動を取る。
僕らが無事でもレールガンにまではバリアコーティングがされている訳ではないので受けるつもりはない。
大事な武器なのだからきちんと扱わなければ後で泣きを見るのは僕達だ。
そうしているうちにも僕らは二体目に照準をあわせる。
引き金を引く、二度目の衝撃と共に放たれた弾丸が敵を吹き飛ばす。
今の所うまくは行っている、今回は運がいい。
最近はミサイルだけでなくレールガンの射線を予測して光線で弾体を撃ち落す妙な個体が居るという報告もあったので少し不安であったが、問題無く終わりそうだ。
排熱と冷却、そして装填を終わらせ、最後の敵に照準をあわせる。
逃げの姿勢に入っている向こうもどうやら光線を撃つのを控えて温存している。
どっちが先に引き金を引くか、早撃ち勝負。
まるで西部劇のガンマンのミームの様だ。
とはいえ、逃がす訳もないし、そもそも攻撃に当たってやるつもりもない。
瞬間的に真下に向けて推進力を向けて加速降下しつつ、銃口の角度を補正、引き金を引く、僕らの真上を光線が通過した同時に弾体が発射された。
当然、それは敵を貫通し、地表を抉って土煙を立ち上らせた。
爆ぜた敵の残骸が周囲に撒き散らされ、溶けていく。
まだ戦闘態勢は解かない、ゆっくり降下し、地下を透視する。
下水道、地下の亀裂、古いインフラの残骸なんかに敵が潜んでいるかもしれない。
「――……一先ずは居ない、けど」
「でも、視てる」
スバルを、僕らを観察している敵がいる。
この敵をスバルは知らないが、僕は知っている。
僕は前にも何度かこの視線の主に見られている。
人類が敵を知ろうとする様に、敵もこちらを知ろうとする。
こうやって戦場で出会う僕らを「理解」しようと観察する個体がいるのは、少なからず聞く所である。
敵の気配の方向は大よそ分かる、狙撃にも対処は出来る、だけど、細かい位置は分からない、だがとてつもなく巨大に感じる。
どういった原理でその姿を隠しているのかはわからない、視覚、聴覚、温度、異色光、空間、質量、どうやってもその姿は見えない。
加えて敵意を感じない、それどころか興味を持っている様にも感じる。
「ハフリ、気持ち悪い……」
「ここは引く、向こうにやりあう気がないなら、今は戦う時じゃない」
スバルの嫌悪感もわかる、今までの敵はこちらに間違いなく害意を持って攻撃してきていた、だがこいつだけは別だ。
敵は知性だけでなく、確かな意志を持つ存在だ。
僕らが敵からこの星を取り戻すには、まだ力が足りない。
それを理解させられる。
油断せず、意識を向けたままにその場を離脱し、生存域守護線まで後退を開始する。
その間もそいつは、ずっとこっちを見ていた。
しばらく飛び、防衛システムまで辿り着いた頃には流石に視線は消えていたが、スバルの不安は消えずにいた。
だから僕はリンクを維持している。
「スバル、大丈夫か」
「あんまり、よくはありません」
「僕は何度か奴に見られている、だがこうも凝視されたのは初めてだ」
「あれは、なんなのでしょうか」
「さあな……だが、いずれ戦う事になると僕は思っている。その時に勝つ為に、僕らは強くならなければならない」
恐怖とは、本能だ。
未知や危険といったモノから生命を守るためのシステム。
まったく感じないというのはそれも危険だが、僕らは戦士だ。
恐怖を克服し、力によって危機と未知に立ち向かうべき存在だ。
「……心配するな、僕はいつでも君と共にいる。君が望む限り」
彼女の恐怖と不安を取り除き、心を守る、それも僕の役目だ。
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