01 赤い瞳
「シャル!ねーえ、しゃーるー!」
騒がしい声に、青年は眉を寄せながら顔を上げた。
その拍子に紙が擦れて音を立てる。
寝起きだからか少しぼやける視界を擦って声の主を見た。
金貨を溶かして作ったような金の髪に、炎を閉じ込めたような赤く輝く瞳。
そして、彼の想い人によく似たその顔。
シャルと呼ばれた彼は軽く跳ねた毛先を押さえながら目を細めた。
「……エステラ。
俺は見ての通り徹夜明けなんだけど」
「知ってるわよ!でも仕事の追加よ、残念ながら」
「マジかよ……」
文句たっぷりといった様子で自分を見上げる青年に、彼女は知っている、と笑った。
しかしその手にはまた書類がどっさりと抱えられている。
それは彼女のものではなく青年のものだったようで、机に乗せられたそれを見て青年は呻き声を上げた。
「ここ数日シロちゃん、調子悪いんだよね。
休ませてあげようよ」
「……あいつらはそもそも失敗作だろ、調子が悪いのは元からだ。
精々クソトカゲ共のデータ収拾しかできることがないんだからやらせておけ」
手元に置かれた書類を片付けるために机に向き直る。
青年は目の前の山を見て一つため息をつきながら一番上を手に取った。
隣に未だエステラがいるのを横目で確認すると、早く戻ってくれないだろうかと思いながら書類に目を落とす。
たまたまそうだったのか、或いはエステラがわざとそうしたのか、その書類はシロ……最初に作られた存在であるハツシロについてのものである。
ハツシロは失敗作と彼は口にした。
勝手のわからぬ状態で作られた最初の数体は体が弱く、とても本来の目的である竜の迎撃には向かなかったが故の発言だ。
そこにエステラが介入してどうにか一般人より少し強い程度の存在に現在はなっている。
隣からため息が聞こえた。
「シャルってたまに私より心がないよね……
シロちゃんだって女の子なんだもん、大事にしてあげなきゃ」
「女である前にあれは兵器だろ。
無駄な感情なんか植えつけやがって……そもそも一体一体に名前をつけるのは何の意味があるっていうんだ?」
「自分があるから竜に勝てるんだよ」
それにあの子達は一体じゃなくて一人だよ、と彼女は苦笑いを浮かべた。
赤い瞳がこちらをじっと見つめている。
青年は、人でありながら竜のことを熟知しているような言葉を吐く彼女が心底不気味だった。
まるで何もかも見透かしているような、未来すらも見ているような。
彼女の言葉に従って動けば、一度の失敗もなく動けるのが奇妙に感じた。
無論、失敗が少ないのに越したことはないのだが。
青年は未だ自分を見つめるエステラから目を逸らした。
世界が終わるまでの話 ゆずねこ。 @Sitrus06
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。世界が終わるまでの話の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます