海を見たことがないんだ

 海を見たことがないんだ。これは実際に見たことがないということじゃなくてね。テレビとかの媒体を通しても見たことがないんだ。

 噂で聞くには、塩辛い水が大量にあるらしい。夏になるとそこに人が集まって、泳いだり肉を焼いたり、肌を焼いたりするらしい。

 どれだけ想像しても、僕はわからない。海ですることを聞いても蛮族の宴としか想像できなかった。

 水着を見るのがだめだとかなんとかの、実家の情報統制には飽き飽きする。けどまあ、従うしかないからね。

 もし、一人暮らしをして、彼女ができたら。意を決して僕は彼女に言うんだ。


「海ってところに行ってみませんか?」


 ってね。

 これは僕のプロポーズみたいなものなんだ。

 僕と二人で新しい世界を作り上げていきませんか? って。まあ通じないだろうけどね。

 だからそのあと、ちゃんと通じるプロポーズをしようかな。僕と一緒に肉を焼いて食べて、五〇年もしたら二人で焼かれたあと同じ墓に入ろうって。

 結婚一〇年記念の日に、実はあれってプロポーズだったんだよって、ありったけの軽さで彼女に言うんだ。彼女がそれプロポーズなの? って吹き出してくれたら幸せかな。多分僕は泣いちゃうだろうけど

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る