君と言い回し
「この月が沈むまで語り明かしましょう」
彼女は独特な言い回しを好んだ。そして私はその言い回しが好きだった。
「コーヒーでも淹れましょうか。煙草の灰が五回落ちるまでに」
肌寒い秋の夜の冷たい風を浴びて気持ち良く感じるような、そんな感情を知った。
「まだ五時じゃない。時計の二本の針が落ち込むまで九〇分もある」
彼女は時計を見ながら呟き、私の方を見ながら煙草に火をつけてニコッと笑う。
「底なし沼の底で抱きしめあっていたかったのよ」
独特な言い回しから感じる不穏を感じた。
「海の底で暮らしている私は、引き上げて欲しかったんじゃない。一緒に住んで欲しかった」
ああ、と私は察し、精一杯の笑顔で煙草に火をつける。
「あなたは眩しかった。でもその眩しさは日陰を無くしてしまう」
彼女の細く長い指が、私の頬にかかる。
「これが私の最後の炎、情熱。受け止めて」
火のついた煙草同士でシガーキスを交わす。意味のない行為ではあるけれど、私達の別れには相応しいと思った。
「おやすみ、私の恋人」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます