君と言い回し

「この月が沈むまで語り明かしましょう」


 彼女は独特な言い回しを好んだ。そして私はその言い回しが好きだった。


「コーヒーでも淹れましょうか。煙草の灰が五回落ちるまでに」


 肌寒い秋の夜の冷たい風を浴びて気持ち良く感じるような、そんな感情を知った。


「まだ五時じゃない。時計の二本の針が落ち込むまで九〇分もある」


 彼女は時計を見ながら呟き、私の方を見ながら煙草に火をつけてニコッと笑う。


「底なし沼の底で抱きしめあっていたかったのよ」


 独特な言い回しから感じる不穏を感じた。


「海の底で暮らしている私は、引き上げて欲しかったんじゃない。一緒に住んで欲しかった」


 ああ、と私は察し、精一杯の笑顔で煙草に火をつける。


「あなたは眩しかった。でもその眩しさは日陰を無くしてしまう」


 彼女の細く長い指が、私の頬にかかる。


「これが私の最後の炎、情熱。受け止めて」


 火のついた煙草同士でシガーキスを交わす。意味のない行為ではあるけれど、私達の別れには相応しいと思った。


「おやすみ、私の恋人」

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