あの日の君と重なって

「君のことを愛してたんだ」


 ベッドに腰掛け、外を見る彼女に柔らかな陽光が差している。記憶喪失ということは、知らない人に愛していたと告白されているのと同義だろう。怖がらせてしまったかと少し不安になる。


「今の君は僕を覚えていないだろうから、ごめんね」


 彼女は僕の方に向き直り、目を合わせてじっと見てくる。色素の薄い茶色の瞳が、真っ直ぐ見つめてくるのは、昔のままだった。


「愛していた。ってなに? なんで、過去形なの」

「君との記憶を愛していたから」


 ふぅん。と素っ気ないように他所を向く。視線は面白くないワイドショーにうつった。何かが毛布から出た彼女の手に落ちる。おそらく涙だった。


「じゃあ、今の私には興味がないのね。出て行ってほしい」

「いや、また作れば良いじゃないか」

「そう……」


 彼女は呟き、ぎこちなく笑った。口角を無理やり上げ、少し上を向くのだ。出会った頃からの彼女の癖。

 それが見れて僕が先に泣いてしまった。

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