あの日見た夕焼け

「なんだっけこの歌」

「アノヤケみたいな名前やなかったっけ」


 秋の夕方、煙草を呑みながら、ノイズがかったラヂオの音声を聴く。ん。と言い、煙草を咥えた彼女がこちらに向く。ヤスリライターを擦り、火をつける。


「世界が止まれば良いのにね」

「ずっと夕方か。なんか郷愁的な気分になって、誰も働かんくなりそうやな」

「それで良いんだよ」


 傍においてある段ボールに手を入れ、缶コーヒーを手に取る。生ぬるい好きな味が喉を通る。


「働かんくなって、そのまま世界が終わるのを望んでるん?」

「ああ、できたら、息絶える瞬間が君と同じならそれでいい」

「そういうとこやぞ」

「ああ、思い出した。今流れてる曲、アノヤケの世界を止めてだ」

「やったら、このまま止まるかもなぁ」


 口の端から紫煙を溢れさせ、夕陽を受け橙色に輝きながらニヤリと笑う。この時間が続くなら、世界が止まればいいのに、と強く願った。

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