紫煙と糖分

 何か特段嫌なことがあったわけでもないが、気分を沈めるほどの重く暗い雲が僕の気分をも重くした。

 長い付き合いの友人から電話がかかってきて、楽しく話していると、友人は突然言った。


「山の麓の広場に行こうぜ。甘いカフェオレを持っていくから。お前は煙草持ってきたらいい」


 わかったよと返し、煙草を二箱持って、山の麓の広場に向かった。ベンチと木以外何もない広場は、どこか気持ちを落ち着かせてくれた。


「待ったか?」

「いーや、全然」


 友人はビニール袋からカフェオレを出しながら、そう言った。カフェオレを僕に投げて、僕は煙草を投げ返す。とりあえずというように、お互い煙草に火をつける。

 二二時の広場に大人二人が煙草を吸いながら、コーヒーを飲んでいるのはどう見えるのだろう? 傷心の友達を慰めているように見えるのか、それとも、死のうとしている友達を止めようとしているのか。

 カフェオレの缶には生クリーム入りと書いてあった。一口含むと、想像以上に甘かった。

 

「甘いのがいいらしいぜこういうときは」

「ニコチンとタールがいいらしいぜこういうときは」


 僕の言葉に友人は笑う。特に何を話すでもなく、甘いカフェオレをちびちび飲み、煙草の紫煙が夜の広場に広がって行く。

 落ち込んだとき、友人はこうやってカフェオレを飲みながら一緒に煙草を吸ってくれるが、この時の煙草が一番美味しいんだ。

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