雨と想い出

 雨が屋根を打つ音に耳を傾けながら、コーヒーを口に含む。雨は嫌いだったが、最近は好きになってきた。雨が降るという予報を見ると、私は胸が躍る。背後に気配を感じる。振り向くと彼女が静かに微笑んでいる。彼女は私の目を見つめ、口を開く。


「雨降っとるなぁ。今日は何処いくん?」


 と。雨に嫌な思い出があった私に、彼女は言った。「やったら、嫌な思い出が無くなるまでずっと二人で思い出作ったらええやん」と。僕は彼女の案に賛成した。雨が降ると、動物園に向かったり遊園地に行ったり、植物園、博物館美術館。様々なところを満喫した。

 今日は何処に行こうか。


「映画館で映画見て、そのあと雰囲気良い喫茶店で映画の話でもする?」


 彼女は頷く。車の鍵を手に取り、振り返ると彼女がいなくなっている。少し強く念じる。彼女がまた現れる。

 彼女は僕が生み出した幻覚だ。だが、僕は人間だと思っている。彼女だと思っている。たとえ世間に異常者扱いされようと。


「じゃあ行こっか。傘忘れないでね」

「忘れるわけないやろ? 雨やねんから」


 僕はふと目を細め、共に作った想い出達に浸る。幸せな日々を送っていると実感した。


「ほら早く行くで。上映時間遅れたら面倒やから」

「ほいほい」

 

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