水切りとお願い

 よく晴れた土曜日の部活帰り。俺は、「家帰らずに二人でいようよ」と言う彼女と、寂れた商店街を歩き、駅前のデパートを散策し、今は綺麗でも汚くもない川の遊歩道を歩いている。

 少し緊張し回らなくなる口を開き、異様なまでに主張する鼓動する胸を少し抑えながら冗談めかし言う。


「なぁ。俺さ水切りうまいんだよ。五段跳ねたらキスしようぜ」


 彼女は少し目を泳がせながら、小さく笑う。「んー?」と肯定とも否定とも取れない声を上げる。


「おっけ。決めた!」


 平たい石を選び、下から救い上げるように投げる。石が当たった場所に小さな円が幾つも浮かび、六段目で石が水中に沈んでいく。


「っしゃあ!」


 俺はガッツポーズをし、彼女のもとへ駆ける。彼女は妖しい笑みを浮かべ、俺の唇に人差し指を当てる。


「一方的な条件は飲まない主義なのよ。私も水切りしてい?」


 そう言い彼女は平たい石を選び、横から切るように石を投げる。

 一段。二段。三段。四段。五段。六段。七段。八段。九段。九段目で石は水中に消えていく。

 先程までの胸の高鳴りは消えていき、悲しみが心を占める。彼女は爽やかな笑顔を浮かべ、俺の唇にまた指を当てる。


「私が勝ったから私の言うことを聞いてね?」


 そう言いながら、彼女は俺の唇に唇を重ねる。柔らかい感触と共に彼女の息が小さくかかる。時間にしては一瞬のことなのだろうが、永遠に続いている気がした。彼女はゆっくり唇を離し、俺に笑いかける。


「私が勝ったから私からキスって罰ゲームね」


 と言い、今まで腕を組んでくる。


「キスまでしたんだから控えめに手を繋がなくても良くない?」


 俺と彼女の幸せな笑い声が寂れた河川敷に響く。この一瞬だけこの河川敷は幸せな空間と化す。

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