ひらひらと無遅刻無欠席

 僕の取り柄は無遅刻無欠席。学校には始業の一時間前に着いている。今日も朝の五時に目覚ましが鳴り響く。ベッド脇の水を一口飲み、カーテンを開く。まだまだ外は暗いが、1日の始まりを感じる。

 朝食を自分で作って食べ、歯を磨き制服に着替える。まだ誰も起きていない我が家を静かに出ていく。六時の電車に乗るために自転車で駅に向かう。

 ホームに着くと、色の黒い女の子が達観した表情で立っている。テニスの鞄を背負っている。


「うい」

「あー、おっすおっす」


 彼女は同じ学校の生徒で、僕の初恋の相手。付き合いたいかといえば付き合いたいが、それよりもこの、毎朝挨拶をするだけの関係を守りたいのだ。

 彼女と同じ車輌に乗り込み、向かい合い本を読む。今読んでいるのは彼女が以前読んでいた本。ゆっくり読んで、彼女が読み終わればその本を借りに行こうと思っている。

 電車が学校の最寄駅に着くアナウンスが聞こえる。


「おん。じゃね」

「行ってらっしゃーい。朝練大変だと思うけど」

「んー。あたしは大丈夫よ」


 彼女はそう言いながら手をひらひらと振り歩いていく。僕は誰もいない教室でテニス部の練習を見ながらゆっくりと本を読む。

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