約束

 気分とは裏腹に、外は生きることを強制してくるかのような強い日差しが降り注いでいる。小さく舌打ちをし、僕はカーテンを引きちぎる勢いで閉める。


「さて」


 僕はベッドで眠る嫁をそっと抱きしめる。嫁が自らの力で動けなくなってかなりの時間が経過した。病院に行く金もなく、嫁は衰弱の一途を辿っている。

 目が見えているのか、声が聞こえているのか、感覚があるのかすらわからない。けれど僕は毎日嫁を撫でる。風呂代わりに濡れタオルで全身を拭く。

 おそらく植物人間ではないのだろう。何かの難病かもしれない。だが、どれだけ調べても何もわからない。病名はわからないが、せめてもの救いとして嫁は食事は咀嚼をする。それで彼女は命をつなぎとめている。


「君は、動けなくなるなら、誰も判別できなくなるなら、景色を楽しめなくなるなら、音楽を楽しめなくなるなら、私を殺してくれ。そう言ったね」


 虚ろに開いている嫁の眼を覗き込み、僕は語りかける。


「決断にだいぶ時間がかかってしまった。申し訳ない。僕は今から君を殺す。だけどさ、一人で逝かせたくない。一緒に死のう」


 嫁の唇が微かに動く。


『あ、り、が、と、う』


 と動いたように見えた。そして微かに嫁の眼に涙が浮かんでいる。


「僕の方こそありがとうだよ。さぁ、一緒に死のう。願わくば向こうで君が動けますように。いや、動けなくとも一緒にいれますように」


 僕は涙を浮かべながら笑顔で練炭に火をつける。

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