雪の降る誕生日

 何かが重いモノが落ちる音がして目が覚める。僕は眠い目を擦りながら、枕もとに置いてあるタバコの箱から一本取り出し、火をつける。紫煙を吐きながら、カーテンを開くと、昨日までなかったモノで埋め尽くされている。

 一面の白い地面。大雪が降ったようだ。スマホを開き、納得する。毎年一二月一五日には大雪がなぜか降るのだ。

 僕は体を起こし、タバコを灰皿でもみ消し、スマホをポケットに入れ、隣の部屋へ行く。彼女の部屋。小説を読むことが好きだった彼女は、机に向かい椅子に腰掛け、机のすぐ隣に置いてある本棚から小説を出して読んでいた。

 腰掛けていた椅子には、水色のカーディガンがかけてあり、向かっていた机には白いハンチング帽と水色のマフラー、カーディガンについていたボタンが二つ置いてある。

 僕はハンチング帽とカーディガンとマフラーを玄関先に置き、キッチンから大きなボウルを二つと小さなボウルを二つ取り出し、外へ向かう。

 大きなボウル二つに雪が溢れるほど詰め込み、ボウル二つで球体を作るように重ねる。大きな雪玉が一つ。小さなボウルでも同じ作業をし、小さな雪玉が一つ。

 大きな雪玉の方を少し掌で押し込み、くぼみを作る。そのくぼみにハマるよう小さな雪玉を乗せる。大きめのサイズの雪だるまが完成し、僕は雪だるまの頭を愛しむようにそっと撫でる。雪をすでに相当触っているからか冷たさは感じなかった。

 玄関に一度入り、置いていたハンチング帽とカーディガンとマフラーとボタン二つを持ち、雪だるまへ向かう。白いハンチング帽を頭の部分にかぶせ、胴と頭の接合部に水色のマフラーをそっと巻く。あの日彼女が巻いていたような巻き方で。

 ふと涙が溢れるが僕は作業を続ける。水色カーディガンを胴の部分に羽織らせるように着せ、ボタンを軽くしめる。そしてボタンを目の位置に二つ付けたところで、スマホで写真を撮る。

 SNSを開き、写真と共に文章を投稿する。


『私が住んでいる街にはなぜか一二月一五日に大雪が降ります。今年も積雪具合はなかなかなモノです。

 そして一二月一五日というのは私の彼女の誕生日であり、一〇年前に突如行方不明になった日でもあります。どれだけ探しても見つからず、今も彼女の家族と共に探し続けていますが見つかりません。

 彼女は雪が降ると喜ぶ女性でした。十二月一五日に絶対大雪が降るようになったのも一〇年前からです。なにか因果を感じながら、今年も彼女が身につけていたものを、雪だるまに身につけ、写真を撮りました。

 ぼくはまだ君のことを待っている。まだ愛している。だから、帰ってきて』


 と打ち込み、投稿する。溢れる涙は拭かず、雪だるまを見つめていた。表情のないはずの雪だるまが愛しむように微笑んだ気がした。

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