手を伸ばした先に
ぼくは左眼を瞑り、光の方へ手を広げたまま伸ばす癖がある。左眼は極度の乱視のため、まっすぐにぼやけず見える右眼のみで、光を。
空に輝く太陽に手を伸ばしたり、暗い夜空に一際大きく輝く月にであったり、夕闇迫る時間帯の街灯であったり、家の中の電気であったり。様々な光るものにぼくは手を伸ばす。
その後ゆっくりと何かを掴むように手を握り、自分の元へ引き寄せる。物心がついた頃からの癖であるためぼくは何を意味するか自分でわかっていなかった。
そして今、昼の暑い駅前の喫煙所でしゃがんでタバコを吸っている。左手でタバコを持ち、左眼を瞑り右眼は太陽を見て、右手で太陽に手を伸ばしている。右手に何か感触を感じ、太陽から右手に視線を移すと褐色によく焼けた手がぼくの手を握っている。
「なぁ、なにやっとんの?」
「いや、ただの癖だよ」
ぼくはそう答えながら、癖の意味を理解した。自分にとっての光が欲しかったのだ。そして、今、目の前にはぼくにとっての光である彼女がいる。
褐色によく焼けた顔をくしゃりとさせ微笑む彼女が。ぼくは幼い頃からの癖がなくなるであろうことをなんとなく察した。彼女はぼくの手を引き歩き始める。
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