深い記憶を創る旅行
僕は彼女とよく旅行へ行く。北海道在住のため道内のあらゆるところ。旭川動物園や円山動物園、函館の街並みを観に、小樽の観光街を歩き、宗谷岬も観に行った。帯広の方にも行きのどかな景色を味わった。
道外もあらゆるところへ行った。東京の人の多い商店街、皇居周辺を散歩。横浜へは赤レンガを観に、名古屋では大きな女性の人形の置物を見た。大阪では通天閣の前の通りを歩き、兵庫は姫路城。奈良と京都では過去の寺や神社を歩いた。
さらに西も色々と行った。広島では野球を共に見て、山口では渦巻きを見て2人で声を上げた。長崎のハウステンボスで、彼女がうっとりと「綺麗やね」と呟いたのを覚えている。
僕たちは写真を撮らない。また、ご当地料理も食べない。街並みを、2人でした会話を頭に刻み込む。そういった旅行をしている。
「なぁなぁ、次どこ行く?」
机を挟み正面に座る彼女に声をかけられ、僕ははっと我に帰る。机の上のタバコの箱から一本取り出し、火をつけ、紫煙を吐く。彼女は愛おしいと思っていそうな表情で僕を見ている。僕は思案しながら口を開く。
「んー。また小樽でも観に行く?」
「道外行きたいかなぁ。宮城の塩釜見に行きたい!」
「おっけおっけ。じゃあ次は宮城にしよう」
僕はタバコを持っていない方の左手を彼女の左手にそっと重ねる。若干の感触はあるものの手は透過し、そのまま机に僕の手は当たる。
最愛の人が幻だなんて。籍も入れられない。だから記憶を作りに旅行へ行こう。僕はスマホを開き宮城までの飛行機の便を調べ始めた。彼女は前で笑っている。幻とはいえ、確かに存在している。
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