雪と幻

 軽やかな足音が聞こえ、目が覚める。昨晩眠る前に飲んだ薬のせいか、頭にモヤがかかったような感覚に対し、僕は首を振り関節を鳴らす。

 無理矢理体を起こし、ベッドに座り、枕もとに手を伸ばす。半分眠っているような状態でタバコとライターを手探りで見つけ出し、火をつける。紫煙を吸い込むと頭と体が目覚めていく感覚が全身に行き渡る。

 ゆっくりと一本吸い終わると、頭蓋骨をあしらった灰皿で揉み消し、もう一本火をつける。ぼくはふとさっき聞こえた軽やかな足音を思い出し、カーテンを開き外を眺める。

 昨日までは見えていたアスファルトの道路が見えなくなるほど雪が積もっている。何も考えず外を眺めていると、突然視界の中心に少女が現れた。瞬間移動をしてきたかのように。

 少女は楽しげに両手を広げ、くるくる回っている。空に対しもっと降ってと頼むように。雪に似合わぬ程に日に焼けた顔は満面の笑み。目は楽しげに細められている。ぼくはその少女の顔を見て焦り、玄関に走り扉を開け家を飛び出し、立ち尽くす。

 少女はぼくがいることに気づかず、楽しげに舞うように空を見つめずっと回っている。

 ぼくは静かに見つめ続け、無意識に歩を進める。彼女の頬に触れようとする。すると、雪が溶けるように少女の体は消滅した。

 記憶を辿りぼくは狂ったように笑う。初恋の子が脳裏を過ぎる。彼女は今どこにいるのかわからない。けれどずっと好きなんだ。

 ぼくは寝室に戻り煙草にまた火をつける。そして小さく呟く。


「ねぇ、神様。なんでこんな惨いことをするんだ? 会えない人を見せられるのは、触れないのは辛い」


 いつのまにか溢れた涙は何時間も止まらなかった。

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