夢と現を彷徨って

 夢を見ていた。夢の中で私は蝶々となり気ままに飛んでいた。私は夢だとは一欠片も疑問に思わず蝶々としての生活を満喫していた。気まぐれに花を渡り歩き蜜を啜り、抜けるような青空の下をふらふらと飛び回っていた。

 だが、目を覚めると私は人間だった。寝ぼけ眼で先程見た夢を私は回想した。夢の中で私は蝶々であった。そしてそれを疑いはしなかった。そして今私は人間であることを疑わない。どちらが夢なのだろうかと私はふと疑問に思う。

 と、ふとスマートフォンが音と共に震える。愛する女性の名前が表示されている。私はスマートフォンを手に取り通話に出た。すると愛しい彼女が、


「あ、起きた? 起きた気配なかったから心配だったんだ。じゃあ切るねー」


 そう言い一方的に通話を切った。彼女の声を聞き私は冷蔵庫で冷やしていた缶コーヒーを一気に開き、飲み干す。目が完全に覚めた私の脳裏に先程の疑問が頭を過ぎる。

 少し考え、私は人間であることが現実だと結論づけた。「だって愛する人と過ごす日常の方を現実と信じたいじゃないか」少し底に残ったコーヒーを啜りぼくはそう呟いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る