エピローグ

 多様な価値観の波に揉まれ、カルチャーショックの嵐に振りまわされる日々だった。けれど陽子ようこには、それすらも楽しいと感じられた。遠い異国での暮らしは刺激的で、友人たちはみんなエネルギッシュで、さみしいと思うひまなど、ほとんどなかった。



 そして――


 渡米から五年。



 太陽がくっきりと濃い影をつくる熱い夏。帰国した陽子がまっさきに向かったのは、あの秘密の、思い出の場所だった。


 きらめく海と太陽に『ただいま』といいたくて。ほんとうにそれだけで。期待などなかった。もう二度と、会うことはないと思っていた。


 なのに。

 どうして。


 五年もたっているのに。

 なにしてるのよ。

 なんでいるのよ。

 バカじゃないの。


 なにひとつ声にならないまま、陽子は一歩一歩、足を動かす。


 五年前より広く見える。

 海斗かいとの背中がかすかに揺れて。

 振り返ったその目が見ひらかれて。

 そして、くしゃりと笑みくずれた。



     (陽子編――おわり)



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