第74話 盲目の博愛主義……4
アウリス姫が囚われていたのは、お約束通りと言うか、砦の最上階に位置する部屋だった。
空を飛び、バルコニーに着陸したノックスとルーナは、部屋に姫の気配しかないことを確認してから、遠慮なく踏み込んだ。
「助けに来ましたよ姫様」
ノックスの顔を見るなり、アウリス姫はぎょっとし、後ずさりした。
流石に、歓喜の悲鳴を上げて胸に飛び込んでくる、などという妄想はしていなかったが、意外な反応に、ノックスは眉をひそめた。
「詳しい話は後で、とにかく帰りましょう。貴方の御父上も心配している」
だが、アウリス姫は首を縦には振らなかった。
「いいえ、私は行きません。私は、自分の意思でここに来たのですから?」
「なんだって?」
くだらない展開を察したノックスは、眉間に深い縦じわを刻んだ。
「以前からマヌス王国のスパイと話し合い、計画していたのです。彼の国が食料目当てで攻めてきたのは、先日が初めてではありませんから」
悪びれる様子もなく、アウリス姫は言った。
「父上の非人道的な所業には、ほとほと愛想が尽きました。だから強硬手段を取らせてもらいました。私の身柄と引き換えに食料を援助するならよし。娘の私と見捨てれば国民からの支持を失う。どちらにせよ、これで少しは反省するでしょう」
あまりに浅はかな考えに、ノックスは怒りと同時に目眩を覚えた。
「あんた、そんな理由で自国の財や政権を犠牲にしようとしているのか? あんた姫様だろう?」
「姫だからこそです!」
アウリス姫は胸を張り、毅然とした態度で臨んだ。
「貴方の言いたいことはわかります。『夢想家』『理想主義者』『苦労なしのお嬢様の考え』『現実が見えていない』もう結構です!」
おそらくは、今まで叩かれてきた陰口だろう。
けれど、アウリス姫は信念に燃えた目で、ノックスと対峙する。
「私とて、自分の考えが他人か理解されないのはわかっています。ですが、それでも退くわけにはいかないのです」
一度目を閉じると、姫は声のトーンが下げた。
「ノックスさん、傭兵として多くの国を回った貴方ならご存じでしょう。この世界の理不尽を。同じ人間に生まれながら、貧民街の民は飢えに苦しみ、支配階級は贅沢に溺れる。なんの道理があってこの格差は生まれるのですか? そしてそれは国家間においても同じこと。貧しい国に生まれた者と豊かな国に生まれた者の格差は残酷です。自分の国さえよければそれでいい。そんなもの、支配階級が自分たちさえよければいいと、民に重税を強いるのと変わらないではないですか」
徐々に語気を強めながら、姫は訴えかけてくる。
「国を変えられるのが支配階級なら、世界を変えられるのは強国だけです。私がグラ王国の王位に就いた暁には、我が国の富を隣国に分配し、飢える者のいない世にしてみせます!」
「あんた、そうやって世界中の人を助ける気か?」
「む、流石にそこまでできるとは思っていません。ですが、一人でも多くの人を助けるのは、人として当然のことです。世界全部を助けるか一人も助けないかの二極論には興味がありません」
とうとう、自信にみなぎった声で言い切った。
――やれやれ、自分の思想を正論だと思っている人間は手に負えないぜ。
「罪なき無辜の民が苦しんでいるのなら助ける。救うべき民がそこにいるのなら、国境など些細な問題です」
ノックスの無言を、感極まっているとでも勘違いしたのか、アウリス姫はなおも演説を続けようとする。
なので、ノックスは手の平を突き出して制した。
「あんた、俺と一芝居打たないか?」
「え?」
アウリス姫は、きょとんとまばたきをした。
◆
ルーナは丸めた書状を、ノックスはアウリス姫を小脇に抱えて、廊下に出た。
腕の中の姫はぐったりとして、微動だにしない。
すると、丁字路の横道から、金モール付の軍服を着た偉そうな男と、貴族風の男が、衛兵を引き連れて現れた。
当然、アウリス姫の姿を見るや、血相を変えて叫んだ。
「貴様、グラ王国の手の者か!」
「曲者だ! ひっ捕らえろ!」
衛兵が反応するよりも早く、ルーナが丸めた書状を掲げた。
「約束の麦一〇〇万石だよ」
ルーナの言葉に、衛兵もおっさん二人も、動きを止めた。
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本作、『闇営業とは呼ばせない 冒険者ギルドに厳しい双黒傭兵』
をここまで読んで下さりありがとうございます。
皆さんのおかげで先日、フォロワー数が200人を超えました。
大変うれしいです。
また、本作のキャッチコピーですが、先月、11月の終わり頃に変えました。
『闇営業ではない!直接営業だ!』
から
『正論武装に敵はなし!』
になりました。
理由としては、新規読者が増えず悩んでいたところ、タイトルとキャッチコピー両方に『闇営業』と入っているので重複していると思ったからです。
違う情報を入れ、本作の違う魅力を発信して、それを気に入って読みに来てくれる人がいたらいいな、と思い変えました。
結果、新規読者が増えました。
それだけでなく、一話からしばらく先までの話のPV数が、がおおむね均等に伸びていることから、キャッチコピー詐欺にはなっていない。一話を読んでくれた人が、継続して読んでくれているようなので、うれしく思います
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