第50話 水よりも濃い血よりも濃いもの……6
五日後。
カルプス王子の別邸では、豪勢なパーティーが開かれていた。
表向きはカルプス王子の無事を祝う酒宴だが、実際は、クーデターの前祝だった。
立食パーティーではなく、広いホールにいくつものテーブルが配置され、重臣たちは椅子に深く腰を下ろしている。
王室シェフのご馳走に舌鼓を打ちながら、重臣たちは次々ワイングラスを干し、皆、上機嫌だ。
「いやぁ、それにしても王子が決起を決意して下さり、誠に祝着至極ですなぁ」
「当然ですよ。何せあの防衛魔法暴走は、王子を亡き者にせんとする王太子めの策略だったのですから」
「だが、それが王子を一人前のオトコに押し上げた。決起を口にしたときの王子は、いやぁ、勇ましかった!」
酔いが回ってくると、重臣たちの話題は自然、己の武勇、武功に移っていく。
「ふふふ、それにしても四〇年ぶりに腕が鳴る。是非とも、王太子の首はそれがしが」
「一番槍の栄誉は、是非とも我が軍に賜りたいものですな!」
「いやいや、そこは譲れんよ。我が伝家の宝剣がうずうずしているのでござる」
「見ているがよい皆々方。この武勇に誉れ高きわしの剣裁きが、王子を玉座に導くのだ!」
「盛んですねぇ、しかし、拙者の軍略、采配を王子に捧げるは今です」
「それを言うならそれがしも」
「いや、拙者が!」
皆、自身の武勇、軍略、四〇年前の内乱で打ち立てた武勇をひけらかし、けん制し合う。
カルプス王子が玉座に就けば、新政権の地位は、クーデター時の活躍で決まるのは明白。
彼らが躍起になるのも当然だろう。
主賓のカルプス王子そっちのけで、重臣たちは酔いも手伝い、さらに盛り上がっていく。
やがて、ひとり、またひとりと酔いつぶれていく。
そうでない者も、へべれけだった。
そこへ……。
「王室騎士団だ! 貴公らをクーデターの容疑で逮捕する! 捕らえろ!」
「なにぃいい!?」
会場であるホールに騎士たちがなだれ込む。
カルプス王子の重臣たちはすっとんきょうな声を上げ、その場から逃げようとする。
だが、調子に乗って酒を飲み過ぎたせいで、すぐには立てない。
立食パーティーならいざしらず、着席しての酒宴だったので、飲酒をセーブできなかった。
なんとか立ち上がった者も、ふらふらの千鳥足で、赤絨毯の上にごろりと無様に転がった。
かつては武勇を馳せた名将も、初陣に心躍らせていた若輩も、そろって縄で拘束されて、ずるずると引きずられていく。
「そ、そんな、こんな、一戦も交えずに終わるなど……」
「酒宴で捕まるなど末代までの恥だ、見逃してくれぇ」
「馬鹿な、拙者は、拙者はこの戦で名を挙げて、それで上の爵位を、あぁ」
軍人として、誉れ高き武勇伝を残して出世する。
幾度となく夢想し想いを馳せ続けた野望が、最大最低の理由で潰えてしまい、重臣たちは絶望しながら退場していく。
最後に残ったのは、カルプス王子一人だった。
彼を拘束すべく歩み寄ったのは、長身で赤毛の、精悍な顔立ちの男性だった。
彼を見上げて、カルプスは愛らしい笑みを浮かべた。
「兄さん」
「気づいてやれなくてすまなかったなカルプス。でも、もう大丈夫だぞ」
「うん!」
カルプスは、優しい兄の胸に飛び込んだ。
◆
次の国を目指し、トライコーンのモノクロームに乗って街道を往く道すがら。
ルーナはノックスの胴体に腕を回しながら嬉しそうに微笑んだ。
「カルプス王子は謀反の罪でセカンズ城に無期限の謹慎。これで、エマさんやメイドさんたちと一緒に平和に暮らせるね」
トライコーンの手綱を握りながら、ノックスは答えた。
「あぁ。血は水よりも濃いとは言うけど、王子は血よりも濃い絆をたくさん持っている。あいつは誰よりも幸せになれるさ」
穏やかな声で言うノックスに、ルーナがしなだれかかった。
豊かなふくらみが、ノックスの背中で広く大きく、ぐにゅりと潰れて自己主張する。
「だよねぇ、血縁よりも【LOVE】のほうが濃いよねぇ。むふふふふ」
「モノクローム、ロデオ」
トライコーンのモノクロームが激しく腰を上下して、尻を暴れさせる。
後部座席のルーナは、たまらず投げ出されそうになる。
「あぁ~! 師匠許してぇ! あ、でもこの震動ちょっといい♪」
必然、ルーナの胸が、より激しく背中に押し当てられる不可抗力に気付いて、ノックスはへの字口で、モノクロームに停止命令を出したのだった。
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50話達成。
ここまで読んでくれて感謝です。
前回の内容が内容なので、
最終回と勘違いされてみんなが読むのをやめたらどうしようとか、
なんかキリがいいからこの作品を読むのはここまででいいや、
とか思われたらどうしようと思っていましたが、PV数が維持されているので安心しました。ありがとうございます。
回想編をあのタイミングで入れた理由としては、そろそろルーナが何者なのか明らかにしておきたかったからです。
時系列的には第一話にするべきだし、ライトノベルは普通、少年と少女の出会いから始まるものです。
しかし、第一話がこれでは話が暗いだろう、ということで最初から関係の出来上がっているコンビものとして本作をスタートさせました。
では、次の話で会いましょう。
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