第47話 水よりも濃い血よりも濃いもの……3
メイドに案内されるがまま、ノックスとルーナは廊下の奥へ進んだ。
すると、突然廊下に白い影が浮かび上がった。
ノックスとルーナは素早く警戒態勢を取るも、メイドは気にした風もない。
「エマ、カルプス様にお客様です」
――あれがエマなのか?
ノックスが観察していると、白い影は、徐々にその輪郭の解像度を上げていく。
やがて、影はメイド姿の美女に変わった。
同じ美人でも、ルーナとは違い、派手で煌びやかな、女神を思わせる女性だった。
そのエマに、メイドは親し気に話しかけている。
「カルプス様のことを心配して来てくれたみたいだから、通してあげて下さいね」
ノックスの隣で、ルーナが妖精眼を使う。
彼女の妖精眼は、対象の魔力的な性質を看破することができた。
おそらく、エマに異状ないか調べているのだろう。
だが、そのルーナの顔が、一瞬で凍り付いた。
「師匠! 防いで!」
ルーナの忠告を受けて、ノックスは脊髄反射で防御結界を張った。
そのコンマ一秒後、極太のレーザー光線が殺到してきた。
ノックスとルーナ、二枚の防御結界がその殺傷力を防ぐが、あまりのまばゆさにノックスは目を硬く細めた。
レーザーがやむと、ヒビだらけの防御結界は砕け散った。
「何をするのですかエマ! 彼らはカルプス様の味方ですよ!」
「侵入者を排除します。私は、侵入者を排除します」
メイドの訴えも空しく、エマは宝石のような瞳に敵意を讃え、次の攻撃態勢に入ろうとする。
「レーザー、光属性の攻撃魔法か……ルーナ」
「うん、エマさんは魔法で作られた、光属性の疑似精霊だよ。力の源はこの土地の地脈で、魔力は無尽蔵みたい」
地面の下には、莫大な魔力が、水脈のようにして流れている。それが地脈だ。
地脈の魔力を人間が利用するのは極めて困難だが、専門家が設備を整えれば不可能ではない。
「すごい、何本もの地脈が城の下で合流して魔力溜まりができている」
「先代城主は魔法の研究が趣味だったらしいが、地脈から魔力を吸い上げる魔法陣を作れるほどの腕前だったとはな」
ノックスは、先代城主であり、王子の祖父の技術に舌を巻いた。
「侵入者を、排除します!」
エマの両手から、それぞれレーザーが放たれる。
先ほどよりは細いが、それでも十分に太く、恐ろしい程の威力がわかる。
そのレーザーが、ノックスとルーナの【背中】を焼いた。
「「ッッ!?」」
ふたりは、そろって苦痛に顔を歪める。
「何今の? レーザーが反射した?」
ルーナの言う通りだ。
ノックスも見た。
エマの手から放たれたレーザーは壁に反射して天井に当たり、そしてふたりの背後へと伸びていた。
それを視認したとき、すでにふたりはレーザーを受け終わっていた。
「なるほど、光は鏡でなくてもある程度は反射する。その反射する特性を極限まで高めた光、というわけか。しかも、文字通り光速だ」
光魔法の利点は、そのスピードだ。
秒速三〇万キロメートル。一秒で地球を七週半する神速だ。
目で見てかわすことは不可能。その存在を認知するのと喰らうのが、ほぼ同時なのだから。
ノックスの目にも、今の攻撃は【光線が走った】のではなく、視界の中に零秒で光のラインが【現れた】ようにしか見えなかった。
「おまけに魔力は無尽蔵。なるほど、他の救助部隊が返り討ちに遭うわけだ。なら、こちらとしては闇の力で対抗するしかないな」
「そうだね」
ノックスとルーナは、示し合わせたように、同じ魔法を使った。
対するエマは、未だ健在の侵入者に対して、三撃目の魔法を撃ちこもうとする。
「カルプス様に仇なす者は、私が全て排除します!」
怒りの感情を込めるようにして、エマは両手を合わせて天井目掛けて極太のレーザーを放った。
威力はさっきの比ではないだろう。
天井に反射したレーザーはノックスとルーナの背後の床へ、そしてふたりを、背後から襲った。
メイドが悲鳴を上げて、目をつぶった。
ノックスとルーナの叫び声は聞こえない、不審に思って目を開けると、メイドは目を丸くして固まった。
ノックスとルーナの姿が、シルエットになっていた。
黒づくめ、ではない。
二人の体は立体感を失い、まるで、空間に孔が空いて、別世界に繋がっているようだった。
けれど、ルーナのシルエットは軽快に動き、胸、と思われる丸いでっぱりが、上下に揺れた。
「これを使うのも久しぶりだね師匠」
「使いどころが限られているからな」
二人の声、どうやら、二人は無事らしい。
エマは、状況を解析するように黙して、警戒したまま、二人を観察する。
だが、エマにわかるのは、ノックスとルーナが、闇属性の魔法を使っている、ということだけだった。
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雑談
闇属性って面白いですよね。(唐突)
光属性は強いレーザーで対象物を焼き払うような攻撃が一般的ですけど、闇属性は作品によって結構変わります。
闇属性イコール重力属性だったり、
闇属性イコール消滅の力だったり、
本作では重力魔法は別に存在しているので、光を消滅させる力、と定義しています。
余談ですが、
私が以前MF文庫Jから出版して頂いた【独立学園国家の召喚術科生】では闇属性を、原子を結合させるクーロン力を消滅させ、あらゆる物質を原子レベルで破壊する最強能力として、敵に使わせました。
今でも電子版は売っているはずなので、バトル作品が好きな人におススメです。
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