番外編

【IF――未来×千夏】私の恋人はドSわんこ

※この話は、千夏先輩推しの作者がどうしても未来と千夏先輩のイチャイチャが見たいと思って書いた話です。本編のストーリーとは一切関係ありません。あくまでIFネタです。設定としては未来が2年生、千夏先輩が3年生です。



「玲華先輩とのいちゃいちゃしか見たくない!」という方は今のうちのブラウザバックお願いします。

いいぜ、付き合っても。という方はそのまま下にスクロールしてください。



ではでは……














――――――――――――――



「ただいまー」


「おっかえりー。あ・な・た」



 玄関のドアを開け、靴を脱いでいるとぎゅっと千夏先輩にお出迎えされて抱きしめられた。



 千夏先輩と付き合い始めてから2ヶ月が経つけれど、先輩はバンド練習の前後や友達と遊んだ帰り、時には泊まりを見越して学校帰りなどに度々我が家に訪れるようになった。だんだんと部屋に千夏先輩の荷物が増えてきた頃、もう合鍵を渡すことにした。予告なしに来ることも多いから。



 千夏先輩と付き合って分かったことは、本当に自由でマイペースな人だということだ。

 部屋でくつろいでいたかと思うといきなり立ち上がり玄関の方に向かうのでどこに行くのか尋ねると、「良いフレーズが浮かんだからドラム叩きに行ってくるー」なんてことがしょっちゅう。交友関係も広いので急な呼び出しで家を出て行ってしまうことも多い。

 一緒にいる時は遊び相手になってくれるし、面倒見の良さは変わらない。お互いのプライベートは尊重したいねと話しており、良い距離感でなんだかんだ私たちはうまくやれていると思う。



 そんな自由でマイペースな千夏先輩からの突然の提案で、今日は手料理を振る舞ってくれることになっていた。理由は、なんかこういうの楽しそうだから、だそうだ。日頃のお礼も兼ねているらしい。

 今日は委員会の仕事で帰りが遅くなることが分かっていたので、それは前もって伝えておいた。学校帰りに部屋の明かりがついているのが見えて私はなんだかホッとした気持ちになってドアに手をかけたのであった。



 抱きしめられている手がゆっくりと離れた。

 千夏先輩のニコニコの顔がこちらを覗いていた。あぁ、疲れて帰ってきてこの笑みは癒される。キッチンの方から美味しそうな匂いも漂っているし、気分は最高だ。



「熱烈なお出迎えありがとうございます」


「ご飯にする? お風呂にする? それとも……」


「はい」


「……」



 エプロンをしている千夏先輩は人差し指を上に立てながら上機嫌に何か言い始めたかと思うと、そのまま静止した。



「それとも……何ですか?」


「ここで問題です。それとも、に続く言葉は何でしょうか」


「いや、なんで問題形式?? おかしくないですか……。えーと普通は、わたし? とかそういうやつですよね」



 こんなこと言わせないで欲しいんだけど。



 行動や発言が読めないし、何を考えているのか分からないところも変わらない。



「ご飯とお風呂と恋人の3択なら未来はどれを選ぶのかなぁ」



 ニコニコの笑顔がいじわるな笑顔に変わった。



「はぁ……」


「言ってよー」


「……千夏先輩を選びます。そう言わせたいんでしょう? まったく……」


「あははー、本当かわいいなぁ未来は」



 抱きしめられて頬ずりされる。変にちょっかいを出してきたり、いじってくることも付き合ってから変わらない。

 でもいつもこうして抱きしめてくれたり、甘やかしてくれたりと、でれでれに愛情を注いでくれるのは実は嬉しかったりする。



「千夏先輩……」


「ん?」



 唇を少し突き出す。お帰りのアレ、まだしてもらってないから。



「未来、どうして欲しいか言ってくれないと分からないよ」


「分かってるくせに……」


「えー分かんなーい」



 とぼけたような顔で見下ろされた。



「いじわる……じゃあもういいです」



 千夏先輩を通り越してリビングに進もうとすると手で遮られてしまった。



「諦めたらそこで試合終了ですよ……?」


「どうしても言わせたいんですか?」


「言ってくれないとここを通しませんよ……?」


「本当ドSですよね」


「いやだなぁ、別にSじゃないよ。どういう反応してくれるのか見たいだけだしー」


「そういうのSって言うんですよ!」


「じゃあそういうことにしといてあげる。で、あたしに何して欲しいんだっけ?」



 もう言うしかないか……。言わないと通してくれないみたいだし。



「もう……。千夏先輩、キスしてください。これでいいですか?」


「先輩呼び辞めてくれたらしてあげる。あと敬語も禁止。初めて話した時からさー、敬語使わなくて良いって言ったじゃん? なんで未来は直してくれないのかなー」



 千夏先輩は口を尖らせた。

 敬語をやめろとは以前からも言われてきた。こうして恋人になったんだから私も少しずつ直していきたいと思っているのだけれど、なかなか難しいものなのだ。



「えと……ちなっさん呼びはOKですか?」


「まぁそれでも良いけど……。また『ですか?』って敬語使ったね、お仕置きだなこりゃ」



 千夏先輩はニヤリと笑うと、脇腹のあたりを思いっきりくすぐってきた。

 不意打ちに思わず声が漏れた。そこは弱いのに!



「あははははっ! やめっ、やめてくださいよぉ!」


「ほらまた敬語使った。聞き分けの悪い子だなぁー?」


「ちなっさん! やめて、やめてってば!」



 身をよじらせながら千夏先輩の手を払い除けようと全力でもがくが、くすぐる手は止まらなかった。

 笑いすぎて酸素が切れ、全身の体力が奪われた頃、ようやく解放されて肩で息をしながら呼吸を整えた。



「はぁ、はぁ、はぁ……もう……。やっぱり急にタメ口は無理ですってば……ホントひど―っんんんっっ」



 息切れしているところに急に唇を奪われ、苦しくなって反射的に顔を背けた。



「ぷはっ……ちょっと! はぁ、はぁ……な、なんでこういう時に!」



「えー? だってちゅーして欲しいんでしょ?」



 千夏先輩はぺろっと舌を出して笑った。



「こういうのは嫌です! タイミング考えてください!」


「じゃあどういうのが良いの?」


「普通に……もっと雰囲気あって……こう……」



 うまく言えないけれどとにかく! 酸欠キスなんてロマンのないキスは嫌だ。



「じゃあさ、それあたしにしてみせてよ」



 顎を軽く上に持ち上げられた。薄らとした笑みを残しながら千夏先輩の視線は私の唇に向けられている。



「私の言いたいこと分かってますよね? こういうのは年上がリードしてくれなきゃ」



 だって顎に手を置かれてるのはこっちなわけだし、私からするなんておかしな構図だ。それに千夏先輩はテクニシャンなんだし、リードするのは絶対千夏先輩じゃなきゃダメだ。



「へぇ、そういう時だけ年上扱いするんだー?」


「だってそうでしょう? 事実じゃないですか。ふんっ」



 顔をまじまじと見られる。私はムッとした表情を崩さなかった。



「ふふふふ……ははははっ!」



 千夏先輩は急に笑い出した。



「……なんで笑うんですか」



 低めのトーンで尋ねる。何もおかしいことなんてしてないのに!



「いやー本当かわいいなって思ってさ。知れば知るほど面白いっていうか興味深いっていうか。参ったなぁ、あたしノンケだと思ってたんだけどもうすっかり夢中。未来には全然飽きない」


「飽きられたなんて言われたら泣いちゃいますよ……」



 千夏先輩のことを先に好きになったのは私だ。だって千夏先輩が勘違いさせるようなことばっかりするから……。何度もアタックしたのにどこかはぐらかされてしまう私がいて、涙ながらに告白をしたのを思い出す。

 その時に千夏先輩は言った。簡単に落とせる相手じゃゲームはつまらないだろうからあえて距離を置いてみたと。どこまでも私の心を振り回す人だ。未来のことは好きだが、自分の中ではこれは初めての感情で、恋愛感情なのかどうなのか分からず困惑しているとも言われ、その場で告白の返事をもらうことはできなかった。

 私は諦めなかった。近い距離で見ていると千夏先輩は同性からも異性からもモテモテだったし、誰にでも親しく接するから心が折れそうになったことも何度かあったけれど、めげずに自分の気持ちをぶつけ、決死の努力でようやく振り向いてくれた大切な人。

 飽きられたなんて言われたらもう生きていけないくらい心がズタボロになってしまうだろう。



 千夏先輩の唇がゆっくり近づいてきて一瞬触れ合ったかと思うと、ちゅっと音を立ててすぐに離れた。



「かわいっ」



 千夏先輩はふふっと笑いを漏らした。つられて私も笑う。恋人にかわいいと言われキスをされて嬉しくないはずがない。

 何度も短いキスを繰り返して、キスの合間にお互い笑い合った。



「あの……ちな……ちょっと……話さ……せて……」



 言葉の合間にも何度も軽いキスをされてなかなか話すことができない。もう何を話したかったかさえ忘れてしまった。幸せに包まれている。こんな短いキスなのに。



「こういうキスも悪くないかもです」



 キスの波が収まり、唇が離れたタイミングでじっと千夏先輩の顔を見た。何か愛おしいものを見るかのような視線が向けられているのが分かる。

 長い睫毛に整いすぎているパーツの配置。こうして見ると本当にただの美人なお姉さんで困る……。心臓がきゅっと締め付けられた。



「……未来の1番好きなキスはどんなキスなのかな」



 千夏先輩はそう囁くように言うと私の頬に手を添えて、親指で唇をゆっくりなぞった。

 この感じはスイッチが入ったサインだ。少し自分の脈が早くなるのを感じた。



「知ってるくせに……」


「したい……?」


「うん………」



 頷くと千夏先輩の手が優しく後頭部に回り、唇同士が触れる。触れた唇がわずかに開き、舌がゆっくりと入ってきた。

 私はそれを迎え入れた。なめらかな舌が下から上へと私の舌をすくうように動き、心地良さに声が漏れる。



「ん……未来はさぁ……はぁ、こうされるの……んっ、好きだもんね」



 唇が離れたタイミングで千夏先輩はそう言いながら、何度も何度も私の舌の裏側を侵してくる。なんでこんなに気持ちが良いのか、快感で頭がおかしくなりそうだ。

 千夏先輩のもう一方の腕が腰に回り、制服の中に手が入ると絶妙な力加減で腰から背中、背中から腰にかけてゆっくりと撫でられ、口内と背中の両方からの甘い刺激に身体の力が抜けてしまった。

 キスをしながら両手を千夏先輩の首に回して体重をかけた。



「あれれ、どうしたのー?」



 唇を離され、いじわるな口調で問われる。

 私の身体を支えるように腰の位置に千夏先輩の手が回った。



「キス上手すぎです……」


「未来の良いところはどこか分かってるから」


「なんでこんな甘いキスができるんですか」



 大好きな人だから余計に気持ちが昂ぶるのもあってか、千夏先輩とキスをすると毎回腰を抜かしてしまいそうになる。キスをして腰を抜かすなんて現実じゃありえない話だと思ってたのにこんな経験初めてだ。



「飴と鞭の飴担当だからね」


「あの……ここでやめないでください。続きしてください」



 千夏先輩の襟元を掴んだ。帰って早々だけれど、さっきのをされたら求めないなんて方が無理だ。



「どっかの誰かさんが腰抜かしちゃうから」


「もう大丈夫です……! ほら! だから……!」



 先輩から手を離してしっかり自分で立てることをアピールする。



「さーて、ご飯冷めちゃうし早く食べないとなー」


 千夏先輩は私の鼻先にちょんと触れると、私を置いてリビングの方へ歩いていってしまった。



「千夏せんぱーい……」



 いつもこうして焦らされてしまう。まるで私ばっかりが千夏先輩を求めてるみたいな感じがして悔しい。

 恋愛には優劣が存在すると思っている。私が告白して、なんとか振り向いてもらった時からずっと私は劣勢だ。こんなに私は余裕がないのに、いつも千夏先輩は余裕そうでさ。ずるい。



 手を洗ってからリビングのテーブルの前に座った。テーブルには美味しそうな料理が置かれている。千夏先輩って料理できたんだ。多才だな。

 でも私は機嫌を損ねているのであえて料理のことには触れなかった。



「今日はなんか楽しいことあったー?」



 千夏先輩は私の隣に座って言った。



「別にないです」


「んーじゃあ逆に悲しかったことは?」


「特にないです。普通でした」


「仕事はちゃんとできた?」


「一応」



 拗ね気味に回答すると、横から抱きしめられた。



「んん……ちょっと……」


「拗ねちゃってさー、かわいっ。そんなにしたかったの?」


「はい、そうですよーだ! ……いつも千夏先輩ばっかり余裕でずるいです」



 視線が絡んだ。無言のまま髪をかき分けられる。



「……千夏先輩は私のこと好きですか?」


「大好きだよ」


「……ちょっと安心しました」



 顔が近づきソフトなキスをされた。

 もちろん愛してくれてるのは分かってる。千夏先輩が私をいじるのも好きだからこそだってことも。

 でも常に劣勢である私は時折不安になる。好きだと口に出して言われたい。もっともっと欲しいと思う。こんなに求めてしまうなんて私は欲張りなのかもしれないけれど。



「もしかして不安にさせちゃった?」



 千夏先輩は眉間を細め心配そうな表情になった。



「……。好きすぎて苦しくなるんです。私ばっかりこんな好きで……ごめんなさい、めんどくさい奴で。いつもこうして抱きしめてくれたりするのに」


「ごめんね。拗ねてる顔もかわいくてさ、ついついいじめたくなっちゃったんだ。ご飯食べてお風呂入ったら、たっぷりかわいがってあげる。だからそれまで良い子にできる?」



 千夏先輩はそう言って私の首にキスをした。先輩は何をすれば、言えば私が喜ぶのか全部分かってる。そういうところがさ……



「本当に……ずるい……」


「後で一生分のちゅーしよ。もう無理、嫌ーってなるまで。未来がもういいって言っても辞めてあげないし、寝かせてあげないから」



 千夏先輩は満面の笑みで言った。



「もういいだなんて絶対言わないです」


「へぇ、楽しみだなぁ。じゃあさっさとご飯食べちゃおっか」



 改めて料理に向かい合う。



「わざわざ私のためにありがとうございますね。でもこれ、すごく美味しそうですけど何か変なもの入れてないですよね?」


「今日は入れてない」


「今日はってどういうことですか!?」


「あはは」


「もう……あはは」



 冗談を言って笑わせてくるところも変わらない。



「ちなっさん。いつもありがと。一緒にいると笑顔でいられるしすごく楽しいよ。これからもずっとそばにいてね」



 頑張って慣れないタメ口を使ってみた。ぎこちなさは出てしまったけれど、気持ち伝わったかな。



「未来。一生そばにいるよ」



 髪の毛の流れに合わせて優しく撫でられた。

 


 いじめてくるくせに、懐っこくてたくさんの愛情を注いでくれる。

 私の恋人はドSなわんこである。

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