12話 あれれ、何だか僕眠く……Confusion……なってきたっ……

「ねえ駄女神もどき。ぜんぜん話が簡潔じゃないよ」

「ええ……」

 僕が何だか悩んでいたら、またアンジェリーナがナナナシアに辛辣な言葉を吐いていた。

 アンジェリーナって、こんなに口が悪かったのかな。きっと怒っているだけに違いない。いつもはすごく優しいから、今日は何だか虫の居所が悪いんだろう。僕はそう思うことにした。


『ええっとね……つまりあれよ。バグを取り除かないと、人間というか生き物のの数が減っていっちゃうのよね』

「意味が分からない。それがイブキちゃんと何の関係がある?」

 そうだよ、僕がその減っていく魂を喰っているって言うわけじゃないと思うんだけど。そもそもそんな能力ないし。


『まず前提の話なんだけど、君たち三人は睡眠を取るたびに転生しているのよ。そして魂はここの世界に固定されているから、一生を終えるとここに『魂を引き連れて戻ってくる』の。

 レイジとアンジェリーナは一パーセント以下の魂しか持ってきていないから、すぐに元の魂に馴染んでストックされる。命を落として蘇る時に、その余剰分の魂が消費されるみたいなのよね』

「それが、俺たちが不死の秘密なのか」

『半分はね。レイジは五百年で魂一つ、アンジェリーナは二千五百年くらいで魂一つず消費しているかな。完全な不死ではないよ。ストックが枯渇すれば普通に命を落とすはずよ。

 まあ今の状態だと、ストック量から見れば、不死って言えば不死だけど。

 それでも二人の魂は、元の魂に馴染んでいる魂だから、それはもう君たちの魂と同一なのよ』

 何だか難しい話になってきた。

 この流れだと、僕の魂がおかしな状態ってことなんだよね?


「それで、イブキちゃんはわたし達とは違うの?」

『この間から調べて分かったんだけどね、イブキ君はね、睡眠のたびに魂をまるまる一つ、別の世界から持ってきているのよ。それが毎日の話だから、馴染む暇すらもなくて、さらに総量がもの凄い量になっているのよね。

 幸い魂が増えてもパンクすることはないし、徐々に波長が近い魂から馴染んでいっているからいずれは問題なくなるんだけど……ただね、この星の持つ魂の総量は基本的に変わらないのよ。

 イブキ君が睡眠転生して、別の世界から魂を持ってくるたびに、産まれるべく命が減っていっているのよね』

「ちょっと待て、それは何故今さら気が付いたの? もともと兆候があったんじゃないのか?」

 アンジェリーナが机を叩きながら、僕のスマートフォンの顔を近づけた。

 考えてみれば僕は一昨日初めてナナナシアとあったんだけど、その時点で僕のことを把握できていなかったみたいなんだよね。だから、転生しておめでとうって言われたんだし、ナナナシアから見たらよその世界から来た魂が、僕の体に入ったように見えた。

 僕は本当に寝て起きただけだったから、話が通じるわけがないんだよね。


「ねえナナナシア。それでいったい、僕はどうなるの?」

 僕が声をかけると、アンジェリーナが大きく息を吐いて椅子に座り直した。きっと意識を、これからどうするのかって事に切り替えたんだと思う。責任の所在を責めていても何も変わらないからね。

 それよりも、解決に向けて動いてもらわなきゃだし。


『この魂話が終わったら、速やかにレイジとアンジェリーナの魂樹に背面接触してアップグレードしてほしいわね。

 そうすればイブキ君のと同じように、私がデータアクセスできるようになるから、原因の特定と解決に向けて一歩踏み出せると思う。あとは篤紫君に連絡を取って解決してもらう流れよ』

「その、アツシクンって人は、すぐに何とかできるの?」

『篤紫君なら大丈夫だね。何てったって魂儀システムの制作者だもん。もし彼がいなかったら、この星が灼熱の大地になって生き物が滅亡、全て終わっていたかもしれないんだから。

 そういうわけで、ちょっとレイジとアンジェリーナとお話がしたかったのよ』

「長過ぎだよ、駄女神もどき。でも分かった、なんとかしておくね」

「アンジェぇ……最後まで……」

「うん、わかった。やっておくよ」

『お願いね――』

 それだけ言うと、ナナナシアは通話を切断した。




 僕が二人の顔を見ると、何とも悲しそうな表情を浮かべていた。誰からともなく、ため息が漏れる。


「イブキ、ごめん。俺のせいだまだ俺の枷が残っていた――」

「待ってお父さん。それは違うよ。お父さんだって被害者なんでしょ? 自分を責めちゃ駄目だよ」

「わたしも……ごめんね。そんな状態になっているなんて、全然知らなかった。寝ている時の状態がおかしかったって、もっと早くに気づくべきだった」

「お母さんまで。二人とも悪くないよ、二人がいてくれたから僕がいるんだよ。

 そりゃあ、変な体質になっちゃったけど、解決できない問題じゃないみたいだし、それにナナナシアだって頑張ってくれるみたいじゃん」

「イブキ……」

「イブキちゃん……」

 ああ、もう。なんでそんな空気になってるのかな。

 今回の探索だってずっと三人で楽しくここまで来たのに、やっと目的地に着いてこれから本格的に探索するのに、二人が意気消沈してたらちゃんと探索できないじゃんか。

 ほっと、世話がかかる両親だよ。

 こんな二人だから、僕も二人のことが大好きなんだけど。


「とりあえず今は、お父さんとお母さんのスマートフォンをアップグレードして、早く解決できるように協力するしかないでしょ。別にそれで僕たちの命が危なくなるわけじゃないし、たぶん今までと変わりがないと思うよ。

 ね、ほら。急いでアップグレードしようよ」

 僕が自分のスマートフォンを持ち上げて、背面を当てるのに片手で持てずに両手で掲げていたら、それを見た二人に笑顔が戻ってきた。

 僕が負けないように、二人にとびっきりの笑顔を返すと、二人とも手を伸ばしてきて交互に僕の頭をなでてきた。


「……そうだな。大事なのはこれからか」

「わたしのイブキちゃんは、やっぱりいつものイブキちゃんなんだね」

「当たり前だよ。僕は何も変わっていないんだからね」

 それから僕は、アンジェリーナが向けてきたスマートフォンに、両手で背面を接触させた。


 ドクンッ、と。体の中で何かが跳ねた気がした。

 何か大きなものが僕のスマートフォンからアンジェリーナのスマートフォンの方に流れていって、瞬間的に僕は軽いめまいを感じた。


「どうした、大丈夫かイブキ?」

「あ、うん。何でもないよ」

 アンジェリーナが画面を見たまま、確認ボタンをタップしたみたいで、紫色の光を発しながらスマートフォンの形が変わっていった。

 その横で作業を見ていたレイジが、僕のちょっとした変化に気がついたらしい。一旦スマートフォンをテーブルに置いて、自分で体をあちこち見て見るも、特に変わった感じはなかった。


「やっぱり何ともない。ちょっと目眩がしただけかな」

「えっ……イブキちゃん、本当に大丈夫なの?」

「俺のはアップグレードやめるか?」

 心配する二人に、僕は首を横に振った。


「ここでやめたらいつまで経っても解決しないよ。さあ、お父さん。スマートフォンを前に出して」

「お、おう……」

 遠慮がちに掲げたレイジのスマートフォンに、僕のスマートフォンを接触させた。


 ドクンッ、と。再び体の中で何かが跳ね上がった。

 やっぱり何かがレイジのスマートフォンに流れ込んでいった。ただ今度は、慣れたのかなんともなかった。


「ほら、今度は大丈夫だよ」

「そ、そうか……それならいいんだけどな」

 レイジのスマートフォンも紫色の光を放ちながら、僕のスマートフォンと同じモデルに変化していく。

 これで、二台ともアップグレードが終わった。

 あとはナナナシアが何とかしてくれると思う。


 安心したら、急速に眠気が襲ってきた。


 意識が何だか混濁していて――私が私ではないような気がしてきた。待て、私は誰だ――な、何が起きたのかな? 僕は今、どうなっていたんだろう?


「い、イブキっ! 大丈夫か、何かおかしいのか!?」

「う……うん、ちょっと眠くなっただけ――私は特におかしな所はない。何だこれは私は――僕はどうなってるの?」

「イブキちゃんっ!」

 レイジが目を見開き、慌てたアンジェリーナが椅子をはじき飛ばす勢いで僕の所まで近づいてきた。僕はアンジェリーナの腕に抱きかかえられた。

 体に力が入らない。


「大丈夫だよ僕は――私はいつものイブキだ。父上と母上の――ことはちゃんと分かっているよ。

 レイジと――アンジェリーナ様のことは、しっかりと理解しておる。いつもの――いつもと変わらない僕だよ」

「何でっ、イブキちゃんっ! いつたいどうなっているのよ!」

 耳元でアンジェリーナの悲鳴が聞こえる。

 閉じかかった瞼の向こうで、レイジが必死の形相で誰かに魂話をかけていた。


 僕はどんどん眠くなって――。


 私は徐々に意識が覚醒してきて――。


 僕は――。


 私は目を覚ます――。

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