16話 おおっ、魔力の流れが見えたよっ
僕の視界の先を、人型ゴーレムが体勢を崩しながら通り過ぎて行った。動力コアを撃ち抜かれたゴーレムは、その時点で完全に動きを止めていた。
勢いはそのままに資材に足を引っかけて破壊し、一気に前傾状態で資材の山に倒れ込んでいく。粉砕された瓦礫を巻き上げて、さらにその先にあった資材の山に突っ込んだ。
金属同士がぶつかる激しい轟音と同時に、まるで爆発したかのように砂塵が舞い上がった。
体勢を崩したまま僕たちは、積み上げられた資材の中に落ちていく。
アンジェリーナは、慌てて僕の頭を抱え込んで、風魔法で減速しながら資材と資材の間に転がり込んだ。
しばらくパラパラと砂礫が舞い落ちる音がしていたけれど、すぐに辺りが静まり返った。
僕とアンジェリーナは、顔を見合わせて大きく息を吐いた。
辺りはさっきまでの喧噪が、まるで嘘だったかのように静まり返った。
時折、思い出したかのように、遠くの方から何かが崩れる音が聞こえてくる。
「イブキちゃん……大丈夫? どこか痛いところはない?」
「うん、お母さんありがとう。お母さんがしっかりと守ってくれていたから、僕は何も怪我をしていないよ」
僕をそっと立たせてくれたアンジェリーナが、上体を起こしながら、途中で顔をしかめた。痛むのか、慌てて左足の足首を触っている。
「お、お母さん……もしかして足、怪我しちゃった……?」
「ちょっとね。さっき足を付けた時に、足を変な風に捻った感じかな。イブキちゃんが順調に成長してくれていて、想定外の重さだったんだよ」
伸ばした手で、優しく頭を撫でてくれた。
きっと僕が辛そうな顔をしていたんだと思う、笑顔で顔を横に振ってきた。
場所は資材の隙間、足を怪我したままではとても移動ができそうになかった。
やっぱり僕が付いてきたから、無茶な戦い方をしていたんだ。いつも通り、大人しく家で待っていた方が良かったのかな……。
そう思っていたら、周りの資材が忽然と消えた。
「アンジェ、イブキ、大丈夫か? すまん遅くなった」
資材が消えた後から、レイジが駆け寄ってきた。
……待って、どういうことなの?
見ればレイジの後ろには、帯状に何もない空間が延びていて、そこにあったはずの資材がごっそりと無くなっていた。
僕が呆気にとられてその様子を見ていると、近くにあった資材の山がさっきと同じように消失した。
あ、レイジのリュックサックか。でも、まだ入るの?
あれって、底なしなのかな?
「イブキ。さっきのゴーレムはこの先に落ちたんだよな?」
「……あ、うん。そうだよ。たぶん、僕がコアを破壊したから、もう動かないと思うよ」
「コアを破壊したのか? どうやってだ、あれはかなり硬かっただろうに」
レイジが喋りながら、さらに周りの資材をごっそりと収納していく。
いやほんと、どれだけ入るのそのリュックサック?
「ほら昨日、サーベルタイガーを倒した時のあの光の魔法だよ。光を圧縮して、もの凄く細くした状態でコアを撃ち抜いたんだよ」
「それにしたって、よく正確にコアの場所が分かったな?」
「え? さっきは僕も必死だったんだけど、集中して見ていたら、魔力の線みたいなのが見えてきて、その元を辿っていったらコアの場所が分かったんだよ」
怪訝な顔をしたレイジがアンジェリーナの方を向いたので、僕も同じようにアンジェリーナの顔を見た。
顎に指を当てて、眉間に皺を寄せて何かを考えていたアンジェリーナは、僕たちの視線に気が付いて首を横に振った。
「えっ、僕何かおかしかったの?」
「魔力はね、イブキちゃん。普通は……目では見えないんだよ。何となく感じることはできるけど、それでも……基本的に強いか弱いか……だけかな。
でもイブキちゃんが見えたのなら……きっと、見えたのだと思う」
何とも歯切れが悪い言葉が、アンジェリーナの口から漏れた。
「だよな、さすがに魔力が線で見えるなんて聞いたことないからな」
「そう……なの?」
「だけどイブキが見えたのなら、それは画期的なことなんだ。ある意味、魔道機械整備士の垂涎の的とも言える能力だな」
「えっ? だって、線が見えただけだよ?」
「……あのねイブキちゃん、魔道機械を整備するためには、その線の断線している箇所を探り当てて修理しないといけないの。
つまりその見えていた線自体が、わたしが直している魔動機の故障箇所そのものなんだよ」
「えええぇっ?」
アンジェリーナが立ち上がりかけて、足に力が入らないのかふらつき始めた。僕とレイジは、慌てて両脇を支える。
危ないので一旦座って貰った。
レイジがリュックサックの中から、車いすを取りだして、そこにアンジェリーナを座らせていた。
ていうか、レイジのリュックサックには、いったいどれだけの物が入っているんだろう?
なんで車いすが普通に出てくるのかな。謎だよね。
レイジが再び周りにある資材を、リュックサックに収納し始めたので、アンジェリーナが座っている車いすは僕が押して進むことになった。
程なくして、ゴーレムが墜ちた場所に辿り着いた。
レイジが周りの資材を収納すると、仰向けの状態のゴーレムだけがその場に残った。その喉元には針の先ほどの穴がうっすらと、反対側まで貫通していた。
「お父さん、これって何で上向きなんだろ?」
「たぶん最初に足が資材に接触してから、そのまま頭から突っ込んで一回転でもしたんじゃないかな」
ざっと大きさを測ってみたら、全高が十メートル程だった。たぶん変形すれば、五メートルほどの車になるのだと思う。
さっきも派手に砂煙が舞っていたし、その場で僕たちのところに倒れてこなかったのは、すごく幸運だったのかもしれない。あのまま押しつぶされていたら、絶対に命が危なかったから。
「それでアンジェ、こいつは持って帰るのか?」
「収納できそうなの?」
「車が収納できているから、大きさの面では問題はないだろうな。
あとはコアが破壊されているし、稼働中の判定も問題なく回避できる。おそらく収納できると思うぞ」
「それなら、是非持って帰ってくれないか。可変ゴーレムなんて初めて見たから、できれば仕組みをじっくり研究してみたい」
レイジとアンジェリーナが話している横で、僕はさっきみたいにじっとゴーレムに目をこらしていた。
ただ、さっき見えたときと違って、ゴーレムの魔力線を見ることができなかった。
ふと視線を動かすと、目の前で車いすに乗っているアンジェリーナが、淡く輝いているのが目に入った。
そのままじっとアンジェリーナの光を見ていると、その光が徐々に収束していって、網目模様のようにびっしりと張り巡らされた線が見えてきた。
線の中には光がゆっくりと流れていた。光は体の表面から、じんわりと外に溶け出ているように見える。
その光の元を辿っていくと、胸の真ん中辺り、後ろから見ると胸のやや右寄りの、ちょうど心臓の反対側に『光の塊』があることがわかった。
これって……アンジェリーナの魔力が見えているのかな……?
「おいイブキ、スマートフォンを顔の横に浮かべて、何してるんだ?」
「……えっ?」
いつの間にか、視界からゴーレムが消えていた。たぶんレイジがリュックサックの中に収納したんだと思う。
集中が切れたからか、スッと魔力線が見えなくなった。慌てて左右を見ると、顔の左側に僕のスマートフォンが浮かんでいて、ゆっくりと下に落ちていくところだった。
「えっと……ゴーレムにまだ魔力線があるのか見ようとしたら、お母さんがうっすらと光っていたんだ。そのままじっと見ていたら、お母さんの魔力線が見えたんだ。
でも僕、スマートフォンは何もしていない……よ?」
「ふむ、レイジが魔力線を見ることができるのは、そのスマートフォンが絡んでいるって事か。だとすると、やろうと思えば俺も見えるようになるのか?」
「ねえ、イブキちゃんには、わたしの体を流れている魔力が見えたってことなのかな」
「えっと……うん見えた。綺麗な網目模様に見えた」
「そっか。それだったらわたしも見てみたいかな」
「しかしそれは、アプリか何かなのか? 一段落したら、しっかり見てみるか……」
その後、部屋にあった使えそうな資材は、全てレイジのリュックサックに収納された。アンジェリーナが乗っている車いすを押しながら、広い部屋がだんだん空っぽになっていく様は、見ているだけでも楽しかったよ。
あらためてレイジのリュックサックは、すごい収納能力だと思った。
僕も欲しいんだけど、何処に行ったら手に入るんだろう……。
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