3話 うわあ、半分自然に戻っているっ

 草原を抜け、山を越えた先に目的の廃都トミジが見えてきた。

 竜峰フジの麓には、大きな壁に外周を一週囲まれた場所があって、すごく広いみたいで遠くの壁は霞んでいて見えなかった。

 坂を下り森の中にある道を車でひたすら走る。時折森から出て襲ってくる魔獣を豪快にはね飛ばしながら車は進む。


 やがてさっき山の上から見えていた、廃都トミジの大きな壁が見えてきた。

 車は、開け放たれたままの入国門をくぐって、廃都の中に入っていった。


「うわすごい、街が半分森になってない?」

 門をくぐってすぐのところで車は止まった。

 長い間放置されていた都市は、半分以上に自然に還っていた。多い茂る木々の間から、住居や店舗だった建物が見え隠れしている。

 もし、国を囲っている大きな壁がなかったら、ここに都市の遺構があるなんて誰も気が付かないと思う。それくらい、自然が建物を侵食していた。


「よし、みんな車を降りて、ここからしばらくは徒歩だな。また車が走れる道が現れたら、車で移動するようにする。

 とりあえずこの車は俺がリュックサックに収納して、入れ替わりに武器や防具を出すから、戦闘があっても大丈夫なように装備してくれ」

「えっ、お父さん車なんて大きい物、収納できるの?」

「ああできる。後で収納するからね楽しみにしてるといい」

 みんなで車から降りると、車の後ろに回った。




 リアゲートを開けると、レイジがリュックサックの中から、三人分の武器や鎧を取り出してくれた。


 僕は腰にはナイフと、刃渡り三十センチくらいの小剣を提げた。どっちも誕生日の日に部屋とは別にプレゼントされたもので、僕の宝物だ。

 体には革の胸当てをつけて、外套を上から羽織った。どっちも僕の体に合わせて、アンジェリーナが作ってくれた物なんんだ。探索がお休みの日に作ってくれていたみたいなんだけど、すっごく綺麗にできている。

 普通にお店で売っていてもいいくらいの出来映えだ。


 レイジは腰に一メートルくらいの細身の剣を提げて、僕と同じデザインの胸当てを装着して、やっぱりお揃いの外套を羽織った。その隣ではアンジェリーナが、自分の背丈ほどもある大剣を背中に背負っていた。腰にはウエストポーチと小剣を携えている。

 もちろん同じデザインの胸当てと、外套を羽織っている。鎧と外套は、全部アンジェリーナの手作りなんだよね。すごいと思う。


 ちなみにレイジも、普通に剣を鍛造してて、僕たちの装備している剣は全てレイジが作ったものだったりする。


「準備はいいか?」

「わたしはいつでも大丈夫だね」

「うん、僕も問題ないよっ」

「わかった。それじゃあお待ちかね、車を収納しようか」

 レイジがリュックサックの口元に手を触れながら、乗ってきた車に逆の手を触れた。そのままリュックサックに引き寄せる動作をすると、まるで流れるように車がリュックサックの中に吸い込まれていった。

 僕は、思わず目をこすって、もう一度車があった場所を見た。


「な……無いよ。車が無くなってるっ」

「ははは、イブキには見せたことがなかったか? 昔、南極で遭難したときに助けてくれた人が、食料と一緒に改造したリュックサックを残してくれたんだ。

 おかげで俺は、ここまで無事に戻ってこれたんだけどな。未だにどこの誰かしらないけれど、会ったらお礼を言いたいとは思っている」

「そうなんだ、凄いね。……でも南極って何処ことか分からないんだけど……あっ」

 そう思ったら、知識というかイメージが頭に浮かんできた。

 まるで何処かから降ってきたように浮かんできたそのイメージは、氷に覆われた極寒の大地だった。氷以外に何もない大地で、周りは冷たい海に囲まれている。

 ここから生還したレイジって、普通にすごいと思った。




 下草を風魔法を応用した切断魔法で切りながら進んでいく。

 今回の探索の前にレイジとアンジェリーナに魔法の使い方を教わって、僕はほぼ全ての魔法が使えるようになった。一ヶ月の短期特訓だったけれど、さっきの『南極』の知識みたいにイメージが降ってきて、魔法の使い方を教えてもらってすぐに、自由に使えるようになったよ。

 レイジもアンジェリーナも、すっごく喜んで褒めてくれた。


 ついでに五歳になったばかりにもかかわらず、すっごい保有魔力量があったみたいで、この歳で魔力切れになる様子もなく、練習の間ずっと魔法を使い続けることができた。

 僕の膨大な魔力量には、さすがに二人ともびっくりしていたけれど。


 そんなわけで、三人で協力して魔法で草や木の枝を刈りながら、木々に覆われた街を進んでいく。

 どうやらここは廃都トミジの中でも、かなり街外れのようだった。

 門の近くに、家やお店だった建物が密集していたくらいで、しばらく進むと木々が少なくなって、見通しのいい林に変わった。


 運がいいことに、ここの近辺には魔獣がいないみたい。

 普通の動物、兎とか鹿、狼にはそれなりに遭遇しているけれど、魔獣とはほとんど遭遇しなかった。


「ねえ、どうしてここには魔獣が出てこないの?」

「たぶんドラゴンの庇護が働いているんだろうな。

 半年ほど前にな、ここによく来ていた探索者が竜峰フジの山裾にドラゴンがいるのを確認したらしいんだ。山向こうに棲んでいたドラゴンが、こっち側に帰ってきたんじゃないか、って話だったんだけどな」

「それはわたしも聞いたよ。実際に魔獣が少なくなっていて、オオエド皇国でも調査隊を派遣したって言っていたかな。

 ただ調査はしたけれど、魔獣が少なくなっていてさらにドラゴンの脅威もないっていう結論で、オオエド皇国としてはこの廃都トミジは放置する方針みたいなの。

 だから探索者が廃都トミジに探索に赴くのは、特に制限しない方向だっていう話だね」

 レイジに続いてアンジェリーナが、オオエド皇国でも中の人しか知らない情報を暴露してきた。何でそんなこと知ってるんだろう?

 さすがにレイジも知らなかったようで、『ほぉ』と唸っていた。


「えっ、ここってオオエド皇国? の人たちの故郷なんだよね。せっかく魔獣がいなくなったんだから、またここに国を作らないの?」

 僕の疑問に、レイジとアンジェリーナは顔を見合わせてうなずき合った。

 あ、何か僕変なこと言っちゃったのかな。


「もし俺が国のトップだとしても、ここの土地はもう放置するな。

 今のオオエド皇国がある場所は魔獣が侵攻しない安全な地域だし、ここと同じように海に面している。国としても、安定しているんだ。

 それを、敢えて自然に還ったような森を開拓して、さらに劣化した建物を壊して、再び街や都市を再建するのは、間違いなく無駄だろうな」

「それにね、イブキちゃん。ここって、竜峰フジに棲んでいるドラゴンの気分で住処を移動なんかしたら、また魔獣が跋扈する地域に戻るかも知れないんだよ。

 先祖の興した国土とは言え、そんな所に危険を冒してまで、二度と国を興す気にはなれないよって、この間皇女がぼやいていたよ。

 だからにオオエド皇国は、この地を完全に放置することにしたらしいの」

 言われてみればそうだよね。

 ドラゴンの庇護って聞こえはいいけれど、実際はドラゴンの脅威で魔獣が退けられているだけなんだよね。



 林を抜けて、草原のような場所を進む。

 ここはかつて、一面に畑が広がっていたんだと思う。周りに自然に生えている植物が、何だか僕が知っている麦に似ていた。


 アンジェリーナが立ち止まって、スマートフォンの画面を点灯させた。レイジが横から覗き込んで眉をしかめる。そして二人が顔を見合わせて、同時に首を横に振った。

 何でそこ、動きが同期するの?


「さすがに廃都の竜峰フジ側は、まだほとんど探索されていなぁ。

 海側は街道が走っているから、ある程度都市遺構に沿って地図ができていたはずだけど。ここら辺にも普通に他の探索者が来ていたはずだけどな……」

「あの門から入ってもすぐに林や、昔穀倉地帯だったところに出るから、基本的に海側に向かって探索していくんだと思うよ。ほら、南にスクロールすると、ちゃん建物が表示されているから。

 ほら、イブキちゃんも見てごらん、わたしたちが通って見てきた場所は、ちゃんと地図に建物の形が反映されているんだよ」

 アンジェリーナがしゃがみ込んで僕の顔の近くにスマートフォンを近づけてくれて、一緒にスマートフォンの画面を見せてくれた。

 そこには地図が表示されていて、自分たちが通ってきた所にあった建物がちゃんと地図に表示されていた。それ以外の、特にこれから進んでいく先の方は、まだ森とかの自然扱いになっていた。

 不思議だね、僕たちが認識した地形が地図になっている。


「ここがちょうど開けているから、今日はここでキャンプをしよう」

 しばらく歩くと、何もないぽっかりと開けた広場に出た。もしかして、昔集落があった場所なのかな?

 レイジがリュックサックから車を取り出して、広場の真ん中辺りに再び車が出現した。二回目だから、もう驚かないんだから……。


 なんて光景を僕は、びっくりして固まりながら見ていた。


 あのリュックサック凄すぎるんだけど。

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