便利屋の近藤さん2

 工房の並ぶ区画はいつでも騒々しい。日のある間は何かが動く音、何かを打つ音が消えることはない。その合間に指示を出す大声が響き渡る。

 そんな中に一つ。とても静かな工房があった。

 染物工房のように糸を乾しているわけでも、皮工房のように薬品の匂いがするわけでもない。ただ、工房の何かの残骸が散らかっているくらいで、外から見ても何の工房なのかはさっぱり分からない。

 いや、さっぱり分からないのは、中に入っても同様だ。

 入口の扉を開けるとすぐにある作業場。その机の上にはランプのようなもの、何かの入れ物、よく分からない管に変な色合いの液体と、錬金術の工房のような機材が並ぶ。しかし、一転、床に目を向ければひしゃげた鉄の破片に、木製の歯車、大小様々なネジが転がっている。鍛冶屋のように炉があるわけでもなく、木工所のように木屑が散らかっているわけでもない。工房には不似合いな部品の数々。そう、床に転がっているのは部品ばかりで、それを組付けるような装置が見当たらない。


「魔力式と言っても、それはただ単に動力が魔力であるというだけなのだよ」


 そんな静かな工房からは話声だけがしていた。


「言わば、手で回すか魔力で回すかという違いでしかない。であるから、手で回すのに非常に力が必要であるということは、魔力で回した場合には非常に魔力を消費するということだ」


 工房の中にいるのは二人。

 一人はケンタウロス。先ほどから話続けているこの工房の主だ。一般的にケンタウロスと言えば、下半身が馬で、上半身は人間と変わらない。ただ、この男は少しばかり面長で長髪である。そのせいで馬面だとかたてがみが生えているとか言われている。最も、本人がそれを気にするそぶりは一つもない。

 もう一人はミノタウロス。こちらは牛のようなひづめと角を持つが、足は二本しかなく、ケンタウロスに比べて人形に近い。最も、大きさは一回り以上は大きいだろう。


「逆に言えば、魔力式に変えただけで出来ることは、手で回す方式でも出来る。出来ないのであれば魔力式に変えた所で無駄になるのだよ」


 ケンタウロスが話続けている間、ミノタウロスはじっと聞いている。


「つまり考えるべきは構造だ。何で動かすかでも、どのエネルギーなら動かせるかでもない。最適な構造を考えるべきだ」


 ケンタウロスが一人で話し切ると、そこでやっとミノタウロスが口を開く。


「そうなると近藤さん。今の圧搾機をまるっきり作り替えろってことになりませんか」

「もちろん、もちろんだとも、今の圧搾機で潰し切れないから何人ものひづめで潰しているのだろう。ならば構造から見直すべきだ」

「流石に、そこまでは工房長がうんと言いませんよ」

「どうしてだい?」

「その間、圧搾機が使えないじゃないですか」

「ならば、新しく作るんだね」


 近藤さんと呼ばれたケンタウロスは、そう言って髪をばさりと跳ね上げた。

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