目覚めたら、そこは──!
♢11♢
今日、俺はきっと疲れていたんだと思う。
異世界から戻ってから長時間の二度寝もしたし、学校でもしこたま寝たが、それでも疲れていたんだと思う。
生クリームを買いに往復ダッシュしたし、トリュフチョコを作るのもぜんぜん簡単ではなかった。ずっとルイと2人だけという状況も、多分に影響があったんだと思う。
だから、ルイちゃんのチョコレート講座を終え、自宅へと帰り、お土産となったチョコを冷蔵庫にしまい、夕飯あとは部屋にいき、今日のことを考えならがベッドに横になったらすぐ寝てしまった。
やることもやりたいこともあったが、うっかり寝てしまった。宿題とかいうやつもあったんだが、学校で見せてもらえばいいか……。そう思ってました。
──どうしてこんなことを言うのか?
それは言い訳が必要な状況というか、言い訳するしかないというか、身動き取れないというか、寝たんだから途中目が覚めても夜のはずだろう? とか。とかとかとかとか、あるからだ。
感のいいみんなは、そろそろ気づいたかなー?
何故だか、目覚めたらお姫様の部屋だった。部屋には、すっげーー! 怒っている様子のお姫様。
そして俺は安定のやつにされてました。
「おい、何で俺はまた簀巻きなんだ!? というか何で自分の部屋にいない! これって誘拐っていうんじゃないのか! 犯罪だぞ!」
「──うるさい! 約束を守らない男が何を言ってるのかしら? あんた、『また夜な!』って去っていったのに、結局こないじゃない!」
そういえばそうだった。確かに言ったわ。
今日はお姫様にケーキをホールで買ってくるって約束して、それを帰りに買ってるし。忘れてたというか寝てた。
「……Zzz……Zzz……」
「──寝たふりするな!」
名探偵には寝たふりすら見破られてしまうのか。うっかり寝てたのは悪かったけど、それにしたってこんなに怒んなくてもよくない? ケーキが待ち遠しかったのか?
「ごめんなさい。これ解いてください。ちゃんとケーキもあるし、今日は手作りトリュフチョコもあるんだ! ねっ? 疲れてたんだってー」
「──うるさい! 誤魔化されないわよ。待ってたのに一向にこない! あたしは1日以上待ってたのよ!」
「そんなバカな……」
そうは思いながらもふいに、『時間は世界が帳尻を合わせてくれる』。何故だが、お姫様のその言葉を思い出した。
それに1日待ったとお姫様は言った。
「今日は木曜日だよね?」
「──金曜日よ!」
「何で、そんなに進んで……」
「──あんたがバカだからでしょ!」
昨夜うっかり約束を破ったら、異世界は金曜日になってました。こわいね。異世界。
なんかいろいろ説明されたが、ほぼほぼ分かりませんでした。こわいね。異世界。
分かったところだけお伝えすると、待ちぼうけたお姫様はクローゼットに鍵をかけなかった。
いつくるともしれない俺を甲斐甲斐しく待ち、うっかりそのままにしてしまったらしい。可愛いやつめ。
「ぎゃぁぁぁぁ──。簀巻きでそれはアカン! 転がしたらアカンって! サッカーボールじゃないんだぞ! ぎゃぁぁぁぁ────」
「言ったことすら守らないなんて最低! このくらいで許されるなら安いもんでしょ!」
「やめ、もうやめ、ぎゃぁぁぁぁ──」
これからは、ちゃんと約束は守ろうと思います。
この後、お姫様に続き(俺を攫ってきた)セバスにもめっちゃ叱られました。
悪魔は時間にうるさいらしいです。きっと、悪魔が時間を調整しているんでしょう。
えっ……正解なの。嘘だろ……。
そんな感じで異世界の話が始まります。
ここまで『異世界らしさねーじゃん』と思っていたキミ。ここからは異世界らしさしかないぞ!
おかげで木曜日はしばらく来ない。よってルイちゃんのチョコレート講座は、しばらくお休みです。
楽しみだったみんなにはごめんね。
※
お姫様に簀巻きのままサッカーボールにされ、下の階までそのまま運ばれ、謎の部屋に蹴り入れられた。
そこで待っていたメイドさんたちにドン引かれ、業務的に寸法を測られ、謎の衣装に着替えさせられました。
そのどっかで見たことある衣装の自分を鏡で見て気づいた。どうやら俺は、ニクス始め人間ぽい人たちの仲間入りをしてしまったらしい。
「プロデューサー殿って言われたけど、あれなに?」
その格好となった俺に持ってこさせたケーキを、ホールでパクつくお姫様に尋ねてみる。
俺には絶対にできない所行である。また、その所行を止めることもできない。
「あんたの役職でしょ。良かったわね。プロデューサー殿」
役職とな? この衣装は役職についてる人が着てるのか。それはつまり……。
「俺は偉いやつになったのか?」
「そうよ。名実共にプロデューサーという役職に就いた。権限もあれば、責任もある……ね」
知らぬ間に偉くなったら、知らぬ間に責任もついてくるらしい。
プロデューサーと言い出したのは俺だが、責任はあまりほしくないな。
「ちなみに責任とは?」
「バレンタインが失敗したりしたら、こう」
お姫様は自分の首の前にフォークを持っていない方の手で、こう親指を立てて横に引っ張る。
女の子がそんなことしちゃいけません! ていうかマジで!? バレンタインを失敗すると首切られんの!
「じょ、冗談だよね?」
「どうかしらね。ただ、『できませんでした』じゃあ、もう済まないのは確かねー」
ケーキでいくらか和らいだが、未だ機嫌の悪いお姫様は俺に冷たい。
きっと冗談で言ってるんだよね? 怖がらせようとしているんだよね?
「具体的にどうなるのかを説明してください。そんなふうに追い詰められたりすると、僕は力が発揮できないタイプです。のびのびとやらせてくれた方が、いい結果を生むと思います。失敗しても『どんまい!』くらいの気持ちで──」
「それより出掛けるわよ」
「──それより!? ってどこに?」
「下よ。今から城下に行くわよ。案内してあげる」
俺はそれよりスルーされた危機の話をしてほしい。だって行きたくない。しょーじき行きたくない。
「だから俺が買った服着てんのか。普段着になったのかと思った」
「そのへんも解決するためにいくのよ」
「嫌だ! 俺は安全なお城の中で、権力を振りかざして痛い!」
「ふざけてないで行くわよ!」
……城下に行きたくない理由?
これまで機会がなかったから言わなかったが、この城から下って見えないんだぜ?
城下ってどこ? どうやって下に行くの? 浮いてるんだよ、この城。
バレンタインはやりたいし、チョコレートは欲しい。だけど、異世界らしさはいらないんだけどなー。
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