王の使いプロデューサー。もっとカッコいいのにすれば良かった……。

 正式にプロデューサーとなったらしい俺は、嫌だったんだがお姫様に連れられ、城下町とやらにやって来た。

 それで、今は地上に降り立ったところだ。文字はおかしくない。本当に降り立ったのだから。


 天に浮かぶ城からは、下に伸びるラインを上下するゴンドラがあり、それで天空から地上に降りてきた。

 そして現在。何故だか俺は崇められいる。


「王の使い様だ。有難や、有難や」


「21番目の使い様だ。ヒロょいけど、きっと強いんだろうな」


「いや、悪魔のような方だと思うわ。弱そうだもの」


 さっきから、そんな声が聞こえてきます。

 王の使い。これは役職に就いてるならそうなんだろう。ただ、後の2人の発言は悪口が混じってるよね?


 まぁ、いい……。崇められているのは事実! ならば、それに答えるのが俺のやるべきこと、


「はい、私が神です。皆さんに面白いこと。楽しいことを、伝えるために天からやってきました! もう大丈夫です。世界は変わります。さあ皆さん。是非、私といたっ──!」


 両手を大きく広げて、俺を崇める人たちに向けて、演説を始めようとした俺の足が、お姫様にグッと踏まれる。

 そのお姫様の顔が、とてもとても怖いので、死ぬ前に1回やってみたかったゲーム調に説明するね?


 ──チャララー、パパー、ドドドドッ──


 鬼のような形相をしたお姫様がこちらを見ている。目は笑ってないし、とてもとてもとてもこわい。

 これは、戦っても勝ち目はない!


 たたかう

 まほう

 どうぐ

 →にげる


 しかし、足が踏まれていて逃げられない。

 お姫様はニコっと笑って踏む力を強くする。

 俺はのたうちまわる。民衆は引いている。


 たたかう

 まほう

 どうぐ

 →にげる


 ──足が踏まれていて逃げられない!


 たたかう

 →まほう →あやまる

 どうぐ

 にげる


「いたい! すいませんでした! ちょうしにのってました! ごめんなさい! ゆるしてください!」


 俺は謝罪を試みる。

 しかし、お姫様は容赦しない。

 踏む動作にグリグリが追加された。


「ぎゃーーーーっ」


 あまりの出来事に民衆は散っていった……。


「いきなり何を始めようとしてるのかしらね?」


 お姫様の怒りは収まらない!

 お姫様は俺にトドメをさすつもりのようだ。


 たたかう

 まほう

 どうぐ

 →にげる


 足が痛くて逃げられない……。

 お姫様の攻撃。 ──ドグシャ!

 れいとは目の前が真っ赤になった。


 ──トゥルトゥル、トゥルットゥ──


「行くわよ。早く立ちなさい。まったく……」


 トドメまではさされなかった。死んだ感じの効果音とBGMは幻聴だったのか。良かった。助かった。


「大変申し訳ありませんでした。ところで、全然バレなかったな?」


「ドレスじゃなきゃ分かんないわよ。王の使いの付人。そんなところだと思ったんでしょう。変装は上出来、上出来!」


 今のお姫様は、俺の買った服に帽子を被っている。確かにこれならば、一目では姫だとは分からない。

 俺の、お姫様から注意を逸らす作戦も上手くいったしな。 ……作戦だったんだよ? 本当だよ?


「なぁ、気になったんだがニクス始め、あのおっさんたちが残りの20人の王の使いなのか?」


「そうよ。戦に特化した面子だけどね」


「俺は、あの脳筋なおっさんたちと比べられていたのか……。不本意というかないな。イケメンと比べられるのもないが、どちらも遠慮したい」


 あんなゴリゴリの強面すぎる奴らと、普通の好青年である俺とを比べられても迷惑でしかない。差別化していかねばな。


「ほら、行くわよ」


「ちなみに、お姫様は道とか知ってるんだよな?」


 行くとは言うが、どこに行くのかは聞いてない。何をしに行くのかもだ。

 俺の知る限り城からまったく出ないお姫様が、果たして城下町をどのくらい知っているのは、はなはだ疑問なんだけど。


「全然。だって、城下になんてこないもの。公務があれば別だけど、それだって歩いてなんてこないわ。お供が1人というのも初めてね」


 見た目はお姫様がお供だが、実際には俺がお供。そのお供は今日、城下町に初めて来ました。お姫様はお姫様だから城下町に詳しくないです。

 これ、下手したら迷子だよ。道わかるやつ連れてこいよ。


「それでどうやって案内するつもりなんだよ……」


「案内すると言ったのは建前よ。それに、見たらわかるでしょ?」


 ゴンドラで城下町に降りてくる際は、余裕がなくて見れなかった町の様子。

 絶叫マシンくらいの速度で落下するんだぜ、アレ。初めはラインも見えなくて、『落ちてる?!』って思った。死ぬかと思った。


「お世話にも、お城があるところの町には見えないな」


 城下町は全体的に修繕中みたいになっている。完成している建物はほとんどない印象だ。

 それでも一応の機能は維持しているらしい。何屋さんかはいくつか開いている。


 だが、これで案内する場所なんてあるのか? 元が何とか言われても分かんないよ?


「元あった建物は古いし傷だらけだから、全部建て直し中なのよ。そのまま残ってる建物なんて、少ないでしょうね……」


 平和となったのは本当に最近なんだろう。建物を全改修しないといけない理由なんて、他にないはずだ。

 この町の様子を見る限り、人手も足りてないのだろう。


「城は無事なのにな!」


「……」


 ──はっ!? しまった!


 今のはアレだね。不用意な発言だね。自分でも流石に分かってきたよ。

 暗い感じを少しでも和ませようとしただけなんだ! 決して、無事な城にいる人たちをどうとかではないんだ!


「悪い。今のは配慮が足りなかった!」


「あんたが気にすることないわ。城は元々ここにあったわけじゃない。アレ、移動できるのよ?」


「まさかそんなわけが……」


「固定されてるわけじゃないんだから、動くに決まってるでしょ。その気になれば世界一周だって簡単よ。浮いてる時点で察しなさいよ」


 えっ、天◯城だったのかあそこ。探したら伝説の装備とかあるんだろうか? 今度探してみよう。

 世界一周もできるというならやってみよう。ラ◯ュタの雷のような機能はないのかな?


「今度、城を動かしたいんですけど」


「不許可よ。調子に乗るな! それより服屋を探してちょうだい。そのために来たんだから」


「服屋?」


 服屋と言われてもどれが服屋なのか、文字も読めないし分からん。側から判断も難しいし。

 というか、作りかけの町に異世界らしさはあまり感じないが、城と城下町の人たちには異世界らしさがあるよねー。


 服屋を捜索しながら歩くと、その異世界らしさに思わず、ゴクリと唾を飲み込んでしまう。


 俺たちの前を歩いていくお姉さんには尻尾がある。モフモフの犬みたいな尻尾が。

 何かのお店の店員らしいお姉さんは羽がある。蝙蝠みたいな羽が。二クスのように角のあるお姉さんもいる。あの耳もいい! 兎かな!


 あのステキなお姉さんたちはいったい? どうにかお近づきになる方法はないか?

 そうか『服屋はどこですか?』と口実にお話して、仲良くなればいいんじゃね!


「あたし、服屋を探してほしいんだけど……」


「さ、探してるよ」


「完全に女の人を目で追ってるけど? 見境なしね」


「探してるよー。みつからないなー」


 女の人ばかり見ていると隣からの圧力が増す。誤魔化すためにも何か別の……何? 男の人はいないのか?

 いなくはないが興味はない。野郎のモフモフなんぞみんなも興味ないよね? えー、そんなの興味ないのに。


 多少需要があるようなので供給する。

 仕方ないから1人だけ例を挙げると、毛むくじゃらな2メートルくらいあるゴリラなら歩いている。

 ゴリラのような人ではなく、本物のゴリラだと思う。木材をありえない量を1人で運んでいます。


 目立っていたけどゴリラだしな……──喋ってる! あのゴリラ喋ってるよ?!

 嘘、あれも町の人なの! 本当に!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る