こわい。ただ、こわい。

※4-2


 定めされた死を回避するには、暴威の化身に供物を捧げる必要があった。

 それで逃れられない死の運命を回避できるのなら安いものだろう。

 まずはその前夜の話をしよう──




「俺は明日。死ぬかもしれない……」


 俺は重たい現実をお姫様へと告げた。

 何故かといえば彼女は俺と同じく、このつまらない世界を変えようとする同士だからだ。

 その彼女になら死の運命さえ打ち明けられた。


「ふーん」

「だけど、もし生きて帰ることができたなら……」


 もし生きて帰ることが出来たらなんて、そんな可能性の低いことを口にするのはやめようかとも思った。

 それでも口にし、甘い夢を見てしまうのは俺の弱さ故だろう。


「コレはケーキっていうのね。チョコレートケーキ」

「その時は会得しているはずだ。チョコレートの秘術。その生成法を」


 死の運命を越えた先にある、もしもの未来の話。

 そこに辿り着けたなら確かに会得しているはずだ。常人には不可能と言われた、チョコレートの秘術を。


「ケーキって、チョコレートじゃないやつもあるって言ったわよね? それも食べたいから、今すぐ買ってきて!」


 さっきからかなり真剣に話してるんだけどな……。何この対応。俺の話はケーキ以下なのかい?

 それとも何か。最初の「ふーん」から興味なかった!? だとしたら辛すぎる!

 俺は明日マジで死ぬかもしれないのに!


「ねぇ、任せるから早く行ってきてよ」

「キミは今何時だと思ってるんだい。店なんて全部閉まってるわ!」


 コンビニに行けばあるとは口が裂けても言わない。

 ボク、学んだんだ。不用意な発言は自分へ跳ね返ってくるって。


「つかえな。じゃあ、もう帰れば?」


 うん、帰ろう。そして明日。本当に死んだら呪ってやろう!

 ケーキをわざわざ届けに来るんじゃなかった。多少なりとも心配してくれると思ったのが間違いでした!


「──じゃあな! おやすみなさい!」

「……おやすみ」


 貴様など、寝る前に甘いものを摂取しすぎて太ってしまえ! もしくはその栄養の足りないところが育つように祈るんだな! ハーハッハッハ!


 とは思っても、絶対に口には出さない。

 ボク、学んだんだ。このお姫様もすぐ手が出るタイプだって。

 あー、もう帰って寝よう。



 ※※※



 はい、そんなわけで火曜日です。

 本日の死のリスクを、すこーーしでも低くするためにやってきました。賄賂を買いに。


 平日の午前中なのに列ができているお店に、平日だけど並ばなないと買えないプリンを買いにきました。

 これは、「学生には買えない」そういう仕様です。休日は並んでも買えないらしいからな。


 ちゃんと事前に調べてきたんだよ? 何時くらいがいいとかさ。

 ……学校? 出席の時はいたよ。「はい」って返事はしてきたよ。大丈夫だって。プリン買ったらちゃんと戻るから!


 あとは覚悟とやらを決めるだけだ。まだまだ時間はあるしなんとかなる!

 考えると震えるけど……なんとかなる!


 ──で、あっという間に放課後。


 一瞬だったな。まるで一行にも満たない。そのくらいの体感時間だった。つまり覚悟なんてできてない。

 こうなれば当たって砕けるしかない。 ……いや、砕けるのはダメだ。それはいけない。


 もう、約束された時間は近い。

 果たして俺は明日を迎えることができるのか?


 次回に続くといいなー。


 次回に続くかな……。


 次回に続く……。


 続く……。


 続く。


 続く。











 ──えっ、ダメ? これじゃダメなの?

 前と同じ引きでいいじゃん! これで後10回くらいやろうよ! そうしたら俺の気持ちも準備できるかもしれないし!



 ※※※



 あぁ……この時がきた。きてしまった。

 まだ始まってもいないのにドキドキする。いろんな意味で。あんまり良くない意味で。


「おっ、逃げねーで来たな。感心感心」


 いきなりインターホン押す勇気はないので、言われた通りに同じ時間におっちゃんのところに来た。

 ある1つの可能性がある可能性があると思ったからだ。


「お嬢さんはご在宅でしょうか? 急用とかでいないという可能性もあると思うんだ。というか、むしろ急用が発生していてくれないと困るというか。まだ死にたくないというか。明日にしてくれないかな?」


「明日明日っていつまでやる気だ。ルイなら、ちゃんといるよ。裏に回って居間に行け」


 ダメだったーーっ。可能性は0ではなかったはずだったが、俺に運がない。

 もう「逃げる」は使えない! 逃げたところで、逃亡先は徒歩1分の距離もないし!


「なんとしてもルイと仲直りしろ。オレはお前のせいで大変なんだ。昨日、ルイにお前の話をしたら、娘は目すら合わせてくれなくなった……。零斗れいと、もうわかるだろうが上手くいかなかったら、オレがお前を殺す」


「それ、俺のせいじゃなくね?」


「──お前のせいだろ! オレがなんかしたか!」


 いやー、してるだろ。いろいろ……。嫌われてるのは今更だと思う。

 逆に何をもって娘に好かれていると思っているのかが謎だ。


 しかし今はいい。ここで余計なことは言えない。

 おっちゃんには、是非とも頼まなければならないことがあるんだから。


「ねぇ、おっちゃん。俺が助けを呼んだらさ。もちろん助けにきてくれるよな?」

「店番があるから無理だ……」

「嘘つけ! 昨日と変わんないじゃないか!」

「さっさと行けよ! 待たせるだけ機嫌が悪くなるぞ!」

「わかってるよ!」


 あぁ、なんということだ。期待した助けもなく、俺は完全に1人らしい。

 これは本当に覚悟がいるな。まてよ……。


 実はもう怒っていなくて、「久しぶりに会いに来てくれて嬉しいわ!」とかって展開はないだろうか?

 幼馴染だし、あるパターンだと思うのですが?


 ない? ──ないの!? それでも待ってるってヤバいよね。しかもここで終わんの!?

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