みんなはチョコレートって作れる? 豆から。
♢4♢
お姫様とお出かけした翌日。今日は月曜日です。
なんか学校らしいから、仕方なく学校に行く。しかたなくだ。しょうがないからだ。
本当はチョコレートについて情報収集したかったのだが、月曜からサボっては目立つ。俺の普段を考えるとそれは避けねばならない。
今後、サボらなくてはいけない状況がないとも言えないし。いざという時まで残しておくべきだ。
……何を? サボりチャンスだよ。まさか知らないの?
学生に限り年に何回かは許される、学校を理由なく休んでもいい日のことだよ。
そんなのないだろ? そんなバカな!
まあ、その話はもういいじゃないか。俺はちゃんと学校に来ているんだから。
サボってない。授業にも出ている。何も問題ない。それでいいね?
──では、昨日の話から始める!
最後に少しだけ、いい雰囲気だった気がする昨日。その最後の最後は置いてけぼりだったんだけどな……。
まったく、上手いこと家族に見つからなかったからいいようなもんだよ。
機嫌の悪いセバスはズカズカ家に入って行くし、お姫様もそれについていくし。
そして2人ともそのままクローゼットに消えていった。で、終わりだ。
……終わりだって。他に語ることはないよ。
でも、1つ気になったことがある。何でセバスはあんなに機嫌が悪かったんだ?
情緒不安定なんだろうか。いや、もう歳なのかもしれないな……。おじいちゃんだし。
──と、そんなことを考えたりしながら今日1日、学校でチョコレートについて調べた。
捗る捗る。もう驚くほど成果が出た。
うん、授業はまったく聞いてない! だからなに? コホン……しかし、その結果判明したことがある。
残念ながら俺じゃあ、チョコレートはどーーにもならないということが判明した。
板チョコを湯煎して。これは何とか俺でもわかる。だが、板チョコがなかったら? チョコレートすらなかったらどうする?
そこから作れるかチョコレート?
チョコを買い漁りバレンタインをやるのは現実的ではない。そんな予算もない。
予算が出るのは向こうの通貨であって円ではないんだ。
なら、やっぱり作るしかない!
そうたどり着いた俺はネットで、カカオ豆からチョコレートを作る。そんなページを発見した。
当初は、「何だ、載ってるってことは簡単なんじゃん!」とか思ったのだが、実際はくそ難しいと書いてあった。素人は絶対にやらない方がいいと。
結論。「無理じゃね?」となった。素人が沢山いたところで無理なものは無理!
これにてバレンタインの野望は終わり……。
──なんて、俺は諦めがよくない! 悪魔に執着を褒められるほどだからな。クックック……ハーハッハッハ!
しかし、現実問題としてネットの知識しかない俺には手がない。だからプロに聞いてみようと思った。
※※※
1日しっかりと学校で勉強し放課後となり、バイトはないのでさっさと帰宅。は、せずに自宅の横の和菓子屋へと足を運ぶ。
……何年ぶりだろうか。小学生以来か?
以前は自分で開けなければならなかった入り口のドアが自動ドアにと変わっていて、開くと来客を知らせるチャイムが店内に鳴る。
し、知らなかった。なんかハイテクだ。
「へい、らっしゃい。何にしやしょう?」
だが、いくらハイテク化しようと、変わらないものというのはあるらしい。
昔から思っていたことだが、「何屋なんだよ!」って思うね。挨拶が和菓子屋ではなく寿司屋みたいだし。
「なんだ、
「客という可能性は最初からないんだ……」
入ってきたのが誰だかわかった途端にこの対応。このおっちゃんにとって、お客様は神様ではないらしい。
いや、俺が客と思われてないのかな?
「なんだ、客か。何にしやしょう!」
「いや、買わないけど」
「結局、冷やしじゃねーか! 忙しいんだ。帰れ!」
お客様が神様っぽくてよかったが、和菓子を買いにきたわけではないので買わないし、用事があってきたんだから帰らない。
そして、どう切り出すかと考えていたが流石はおっちゃん。勝手に付け入る隙をさらしてくれている。
「忙しいって、競馬新聞読むのに? おばちゃんに言っちゃおうかなー。おっちゃんは店番しないで遊んでたって」
「……ぜってー、言うなよ」
「わかった。その代わりちょっと聞きたいんだけど」
だったら最初からちゃんと店番したらいいのに。とは思うが言わない。
あと、おばちゃんはそのくらいはわかっているよ。ってことも言わない。
「聞きたいってオレにか?」
「ああ、和菓子のプロにだ。どうしても聞きたいことがあって、わざわざきたんだ」
「わざわざも何もウチは隣なんだが……。しかしプロってのは本当のことだな。何だ、言ってみろ」
「チョコレートって豆から作れる?」
おっちゃんは俺の質問に、持っていた競馬新聞を置き、何故だか立ち上がって、店の前に誰もいないことを確認しにいって、元の位置に戻った。
「──ふざけてんのか! ここを何屋だと思ってんだ!」
──で、キレた。
昔からやかましいおっさんだ。本当に成長しない。これだからおっさんたちは……。
「和菓子屋だろ」
「わかってんだったらチョコレートなんて言葉。どっから出てくんだ!」
「売ってんじゃん。チョコレートケーキ」
そう、この店にはケーキも売っているのだ。「和菓子屋とはなんなのか?」とは言うまい。
商売とはいろいろ大変なんだと思うから。
「んなもん、できてるヤツ使ってるに決まってんだろ! 和菓子屋がチョコレートなんぞ作るか!」
「やっぱ和菓子屋じゃダメか……」
ここまであえて説明しなかったが、このおっちゃんは隣の和菓子屋の店主だ。
もしかしてと思ってチョコレートのことを聞きにきたが、やっぱりダメだった。
「おばちゃんは?」
「配達でいねぇぞ。だから、サボってたんだからな」
「威張んなよ……」
説明すると、以前は配達をおっちゃんがやってたけど、こんなんだから配達はおばちゃんに代わったらしい。
確かに。こんなんが配達に来たら俺は嫌だ。菓子が不味くなる。
「おばちゃんはいないのか。おっちゃんは使えないと判明したが、おばちゃんにはまだ可能性があったのに。いないのではしょうがない。出直すか」
「……なぁ、零斗」
「なに?」
「……………………。何で、ルイに聞かねぇ?」
おっちゃんは何かを言うか言わないかを悩んでだろう。長い間を空けてそう言った。
「聞けたらきいてますー。それが無理だから、おっちゃんに質問したんだよ」
「機会があればと思ってたんだ。ちょうどいい。どうしたんだ。お前ら?」
いつかは言われると思っていたことだが、言われると思ってはいたのだが、いざとなると答えに困る。
「仲良しがどうしたら口すら聞かなくなんだ? おかげでウチじゃ、お前の話は禁句だ。話題に出れば一人娘の機嫌はひたすら悪くなる。口にした日にはオレまでとばっちりだ」
「わからない。あいつが何に怒ってるのかがわからない」
いつからだったか、幼馴染とは口すら聞かなくなった。俺はそのきっかけがわからない。
何かに怒っているのは何となく理解してたけど、そんなのは日常茶飯事で。いつもの延長線上のことだと。そのうち勝手に元どおりになると思ってた。
だけど元どおりにはならず、次第に会話することも少なくなり、今じゃすれ違っても挨拶すらしない。
仲良しだったのは昔のことで、今じゃ何を考えているのかも、何に怒っていたのかもわからないというわけだ。
将来の夢はお菓子屋さん。幼馴染はちゃんとそうなるために進路を決めて進学し、その夢を叶えつつある。
大して勉強しなくても行ける学校で、それなりにいいところを選んだだけの俺とは違う。
「どうせお前が悪いんだ。謝ってルイに聞けよ」
「いやー、それはちょっと……」
「零斗、いい事を教えてやる。最後には男が折れなきゃなんねーんだ。世界はそういうふうになってる」
何て心に響く言葉なんだろう。まさに、おっちゃんだから言える言葉。
日頃からおばちゃんに叱られてる、このおっちゃんならではの言葉だ。
「それは俺に
「あぁ、そうだ。2回も3回も死にやしない。死ぬにしても1回だけだ」
「おっちゃんは知らないのかもしれないけど、命はひとつしかないんだよ?」
「いつまでも喧嘩してんなってことだ」
1回は死ぬ。絶対にだ。仮に復活できたとしたら2回目も死ぬ。
残機を無限アップしてない限りは、生き残れる気がしない。そのくらいに幼馴染さんは凶暴なのだ。
「マジで。本当に。冗談じゃなくて!?」
「嫌ならいいぜ。昨日、女と歩いてたって口を滑らすだけだ。きっと、いろいろと大変だろうな」
「──なぜそれを!?」
誰にも気づかれてないと思ってたのに、よりによっておっちゃんに気づかれているとは。
これはマズい。口を封じないとそこらじゅうに拡散してしまう。
「絶対言うなよ! フリじゃないからな!」
「お前、次第だな」
「やります。お嬢さんはご在宅でしょうか!」
万が一にもルイと顔を合わせたくないから、和菓子屋の正面から入ってきたのだ。
家側から入るとなると、インターホンを鳴らしたらルイが出てくる可能性が高いと思ったからだ。
「まだ帰ってきてねぇ。伝えとくから、明日おんなじ時間に来い。死ぬ覚悟を決めてこい」
そうおっちゃんに脅され、長々と喋ってしまったお詫びにチョコレートケーキを買って和菓子屋を出た。
このケーキはお姫様に食わせよう。俺はまだ甘いものは摂取しなくても大丈夫だから。
そして次回のタイトルが、『
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