第5話 俺の愛妻はやっぱり見つからない
そんな感じでスタートした異世界生活ももう何年経っただろう。
あの時強制的にオプションとして付与された女神(名前は長くて覚えられなかったが『ピ』から始まっていたので、便宜上、ピーちゃんと呼んでいる。俺が小さい時に飼っていた小鳥の名前と同じなのはナイショだ)とは、ほど良い距離感でうまくやっている、と思う。
「ぶっちゃけるけど、俺の本当の目的はこの世界のどこかにいる愛妻を探すことだから」
あの建物の四階から、右も左もわからない草原に飛ばされた俺は、彼女への挨拶もそこそこにそう宣言すると、彼女はそれに憤ることもなく「勇者様の仰せのままに」と返してきたのだった。
どうやらピーちゃんは、ラノベ風にいうと『駄女神』というジャンルに属するタイプらしい。彼女が言うには、何かしらの禁忌を犯してしまったがために、降格させられてしまったのだとか。
一体何をやらかしたんだ。虫も殺さないような顔をしているのに。
とまぁそんなこんなで、かなり楽に冒険をすることが出来ているのだが、それと嫁がすぐに見つかることはイコールではないので、こうして色んな街を訪れながらひたすら嫁を探しているというわけである。
魔王の方は相変わらずあちこちに魔物を放って悪さをしているが、小~中イベントはだいたい攻略しているし、別に勇者に限らずとも、戦うことが出来る転生者というのはごろごろしているため、これといって問題はない。ただ魔王にとどめを刺せるのが
「勇者様、もうそろそろ魔王を倒しに行かれては?」
「いいや、駄目だ。俺は何としても嫁を探す」
「もう五年ですよ? 毎日のように可愛い女性たちが仲間にしてくれだの、結婚してくれだのと迫ってきますし、もうその辺で手を打ったら良いじゃないですか」
ピーちゃんは夕食時など、定期的にこの話題を出す。やはり女神としては勇者である俺が何年も魔王を倒しに行かないことに焦りを感じているのだろう。
「俺みたいなのに何年もつき合わせちゃって、本当にごめん。確かに、毎日毎日ありとあらゆる美女から求婚されたりしてるけど、絶対に妥協したくないんだよ。俺は本当に嫁のことが好きなんだ。ピーちゃんさえ良ければ、俺みたいな駄目勇者さっさと見切りをつけてくれても――」
「いいえ、
「ああ、そっか。強制だもんな。離れたくても離れられないよね」
「そういうわけではありません。私がお仕えすると決めたのです。ですから、私は、ずっと勇者様と共におります」
さすがは女神。
もう文句なしの女神だよ、ピーちゃんは。誰だよ駄女神とか言ったやつ。あっ、俺だ。
最近、ピーちゃんのふとした仕草や表情がほんの少し嫁と重なることがある。
五年経っても嫁のことを忘れずにずっと好きでいられるのは、そのお陰だったりするのかもしれない。可愛い女の子達に迫られる時、ちょっと拗ねているようなピーちゃんの顔を見てハッと我に返ったりもしたものだ。
ピーちゃんは女神なんだから、俺の嫁であるはずがないのに。
そのことに罪悪感はもちろんある。
俺は誰よりも嫁のことを愛しているはずなのに、と。
それに、ピーちゃんは、その辺の美少女達のようにありとあらゆるラッキースケベを仕掛けて俺をモノにしようとはしない。つまり、俺とそういう関係になりたいとは全く思っていないのだ。男女の垣根を超えたビジネスパートナー、もうある意味家族。
だから――、
「ピーちゃん、次の街に行こう」
俺はそう言って、彼女の手を引く。
別に全然やましい気持ちなんてないから、なんて思いながら。
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