第4話 とうとう女神まで現れちゃった

 四階の『スキル付与課』は職業選択課のように待たされることはなかった。


 というのも、ここは職業ごとに通される部屋が異なっていて、勇者のような絶対数の少ない(ていうか、俺以外にもいるの?)職業は待ち時間ほぼ0なのである。


 ちょっと薄暗い個室は、何かこういかにもな『占いの館』感があって、まさに『〇〇の母』みたいな、でっかい水晶玉に手をかざしている女性がいた。


 その女性に書類を手渡すと、「はい、勇者様、お待ちしておりました」とやや棒読み気味に言うのである。お待ちしておりました感が皆無。


「それではスキルの付与を致します。その前に、勇者様の最終目的についてお話させていただきますと」

「はい」

「魔王の討伐となります」

「でしょうね」


 そりゃそうだろう。

 勇者ってだいたいそのために存在してるからね? むしろそれ以外の目的がある方が怖いから。


「というわけで、魔王を確実に討ち取ることが出来るよう、こちらの方でありとあらゆるスキルを付与させていただきます。まずは【加護】。これはレベルアップに応じて物理攻撃半減→無効ですとか、魔法攻撃半減→無効などと変化します。それから【召喚】。最初は力の弱い精霊からですが、こちらもレベルが上がるにつれ、ありとあらゆる幻獣を召喚することが出来るようになります。しかし、それらを上手く操れるか、というのはまた別のスキルが必要になりますので、【調教】も付与しておきますね。それからそれから勇者様自身の腕っぷしの方もちょっといじっておかないとですよね。腕力はその辺の冒険者との差別化を図ってレベル50くらいからのスタートにしておきましょうか」

「あの――……もしもし? すみません。その……ちょっとお聞きしたいんですけど」


 恐らくこの人はこの仕事が大好きなのだろう。さっきからハァハァと息も荒く、ほとんど瞬きもせずにキーボードを叩きまくっている。このままだととんでもないスキルをもりもり付与されて『わたしのかんがえた さいきょうのゆうしゃさま』にされてしまう! それはそれでまぁありがたいことではあるが、俺はそこまで俺TUEEEしたいわけじゃないというか、やれやれ、とか、また俺やっちゃいました? とか、そういうのがしたいわけじゃないから!


 俺にとって魔王討伐なんて正直二の次だ。

 それよりはまずこの世界に嫁がいるのかいないのかが最重要ポイントなのである。


 嫁がいないんだったら諦めて魔王でも何でもさくっと討伐する。さっきの白ビキニやら猫女を仲間にしたって良い。


 だけど嫁がいるんだったら、まずは嫁探しだ。で、嫁が見つかり次第魔王討伐に向かう。とはいってもきっと魔王ってやつはそれなりに手強いはずだから――というのを言い訳にして五年くらいは嫁とまったり新婚生活を送る予定だ。何、最終的に魔王を倒せば良いわけだから。


「……何でしょうか」


 『○○の母』みたいな女性は、せっかく調子よくスキルをもりもり付与していたのを邪魔されて、明らかに迷惑そうな顔をしている。


「あの、どうやら連れとはぐれたみたいでして」

「お連れさん? ですか?」

「はい。嫁なんですけど、一緒に転生してると思うんですが、調べていただけませんか?」

「あー、そういうのは個人情報ですのでェ~」 


 まぁそうだろうな。


「それはわかってます。あの、いまの姿がどうなってるとか、どこにいるとか、そこまで知りたいわけじゃないんです。この世界にいるかどうか、それだけでも」

「個人情報ですのでェー」

「ああそうかい、わかりましたよ! じゃあ俺も勇者なんて放棄します。誰か他のやつにやらせてください!」


 どうせあの感じからして俺だけが勇者ってこともないんだろうし。まぁ、レア職ではあるんだろうけど。


 しかし、予想に反して『○○の母』は狼狽え始めた。


「そ、そんな! ここで放棄なんてされたら!」


 おや、やっぱり勇者ってもしかして俺だけ?


「私の査定に響きます!」


 お前の都合かよ!!


「仕方ないですねぇ。います、いますよ、ちゃんとこの世界に」

「本当ですね?」

「はい、本当本当」

「嘘くさい……」

「本当ですって! これに関しては!」


 じゃあどれに関しては嘘なんだよ! このババァ!


「……ふぅ。もうほんとこれ、ナイショにしてくださいよ? これだけでも減俸もんなんですから」

「わかった。とりあえず、嫁はこの世界にいるんだな」

「しつこいですねぇ。いますって、ちゃーんと。ただし、見つけるのはご自分で頑張ってください。ここからはノーヒントです」


 さっきまではそれなりにウェルカムな空気を纏っていたのだが、もう面倒になって来たのだろう、厄介者を追っ払うかのように「はい、スキルは以上です」とか言い出した。


 まぁ、嫁がいるとわかっただけでも収穫だ。ならばこんなところに用はない。さっさと冒険に出発だ。


 そう思っていると――、


「あぁ、そうだ。勇者様にはこちらのオプションが強制的に付与されますので、


 という言葉と共に、奥のカーテンがシャッと開いて、中からこれまたすごい美人が現れた。


「女神です」

「め、女神……?」

「では行ってらっしゃいませ~」

「いや、ちょ、女神様とかいらなああああああああああ……!」



 床下がパカッと開き、俺はそのまま落下した。

 おい、ちょっと待てよ。ここ四階だろ?!


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