第9話 水着なメイドさん
〜7月中旬〜
「つ、疲れたぁ」
授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、私は机に倒れ込んでうなだれていた。
「おいおい、咲。何へばってんの」
「わかんない? テスト疲れだよ。テスト疲れ」
普段の授業では、こんなにへばらないのだが、今日は一日中ずっとテストであった。
「テストなんか難しくないだろ。しっかりと復習して暗記したら」
「簡単に暗記出来る人が言える台詞だよ、それ」
今はいわゆるテスト週間と呼ばれる期間であり、この学院の夏休み前の最後のテストを行っているのである。
実は今日がその最終日。うなだれていた理由は完全に力を使い果たして、燃え尽きていたからだ。
しかしながら話しかけてきた神埼麻也香(かんざきまやか)ちゃんは悠々とした態度で私に接してくるのだ。もっと優しくしてほしい。
「あらあら、どうしたのふたりとも。またケンカしてるのぉ?」
すると今度は柊天音(ひいらぎあまね)ちゃんが私達の元へいつものようにのんびりとした様子でやってくる。
「うわぁあん、天音ちゃん。麻也香ちゃんがいじめるよぉ。くたくたなのにねぎらいの言葉一つないんだよぉ」
「あらあら、辛かったわねぇ。よしよし」
私は彼女の胸に飛び込み、思いの内をさらけ出す。そんな私を天音ちゃんは優しく包んでくれるのである。聖母のようだ。
「天音、そいつを甘やかすんじゃない。いつまで経っても人間的に成長はしないぞ」
「べぇだ。麻也香ちゃんの意地悪」
「こいつ……」
麻也香ちゃんは相変わらず厳しい。思わず舌を出して挑発した。しかしそんなことをすると天音ちゃんは私の頬を両手でぎゅっと挟んできた。
「こら、咲ちゃん。だめでしょ、麻也香ちゃんは咲ちゃんのために言ってくれてるんだから」
「しゅ、しゅみません」
いつもどおりの日常。平凡ではあるが、三人ではしゃぐ楽しい日々だ。
ちなみにそれに明日からは夏休みである。夏といえば海。この夏は母に連れられて海に行くことになっている。行くメンバーは私達三人と私のお母さん、そしてお付きとして水瀬先輩も来るのだ。
「そういえば、海も久しぶりだなぁ。誘ってくれてありがたい」
「そうねぇ。でも日焼け止め買わなくちゃ」
「そうそう、海楽しみだな。だって何といっても、でへへへ❤」
私は顔をとろけさせて、先輩との海の情景を妄想する。
「このバカちゃんはまた妄想の世界に入ったよ。私達も行くんだからな」
「ふふふ、楽しみねぇ。水瀬先輩お綺麗だから、近くで見たら私まで咲ちゃんみたいに惚れ惚れしちゃいそうねぇ。ふふ、咲ちゃんから先輩を奪っちゃうかもねぇ」
「ちょっと、それはだめだめ!!! 先輩は私のメイドさんなのぉぉ!!!」
いきなり何を言い出すのか。私は妄想からすぐさま我に返り、慌てて声を荒げてしまった。しかし直後に天音ちゃんが私の口を抑える。
「咲ちゃん。あんまり大声はだめよぉ。水瀬先輩のことはあまり人に言ってはいけないんでしょぉ?」
「そう、そうだった。ご、ごめんなさい」
そういわれてちょっと反省する。先輩のことは内緒だもんね。
「聖母と見せかけた悪魔みたい。なんか末恐ろしいね天音は」
私と天音ちゃんのやり取りを見ていた麻也香ちゃんは苦笑いしながらそうつぶやいていた。
★★★★★★★★★★
「ただいまぁ!!」
「あら、おかえり咲ちゃん。うれしそうね」
「だってこれから夏休みだし、テンションも上がるよ」
他の二人と別れ、私は自分の家へと帰っていた。今日は別段、予定は立てていないが長期休暇というのは気持ちが高ぶるものだ。
「あ、そうそう。華蓮(かれん)ちゃんがなにか見てほしいものがあるって言ってたわよ。ふふふ」
「先輩が? どうしたんだろ?」
見てほしいものとはなんだろうか。母の最期の意味ありげな笑みに怪しさを感じる。水瀬先輩は二階の私の部屋に待機しているらしく、とりあえずとにかく向かう。
そしてドアに前に立った私はドアのノックした。
「せ、先輩いますか? どうしたんですか?」
「お、お嬢様!?」
すると先輩の驚いた声が聞こえる。一体中で何をしてるのだろうか。
「先輩。中で何をしてるんですか?」
私は心で思った通りのことを質問する。すると先輩は少し恥ずかしげにそれに答える。
「じ、実は今水着を試着しておりまして。その、お嬢様に見てもらいたくて」
「う、ぇぇええ!!?」
突然の発言に奇妙な声を荒げてしまう。だって先輩が今、水着に着替えているんだよ。
まだ見てないのに心臓バクバクしてきた。でも先輩の頼み事なら仕方ない。私はを決して扉を開けた。
「し、失礼します先輩」
私はゆっくりとそのドアを開けた。
「あ、お嬢様……」
すると視線の先に入ってきたのは、少し頬を赤らめた水瀬先輩。そして着ていたのは上下黒の水着だった。
「ふあ、せ、先輩……!!?」
しかも、フリルビキニだ。大胆過ぎず、強調し過ぎず、なにより先輩の魅力が十二分に発揮される仕上がり。しかも黒というのがまた大人の雰囲気を醸し出しているではないか。
「お母様に選んでもらったんですが、私あまり人前で私用の水着を見せたことなくて、あの、そんなに見られては、その……」
お母さん、グッジョブ。思わず心のなかで感謝の言葉を叫んでしまった。お母さんいい趣味してるよ。
先輩のすさまじいプロポーションについつい魅入ってしまう。そして恥じらう姿が可愛すぎる。いつも積極的な先輩だけど、受けに入ってしまう先輩はとても愛しい。
これは気持ちが抑えきれないかも。もしかしたら暴走してしまった水瀬先輩の気持ちはこうだったかもしれない。
「お、お嬢様?」
私は恥じらいに震える先輩の後ろに立つ。そして先輩にされてきたことをお返ししてやるのだ。
「先輩、とっても綺麗です。でもまだまだ先輩の魅力を引き出す水着はたくさんあるはずです」
軽く首筋にキスをする。
「あっ❤」
なんだが乗ってきてしまった。普段こんなことしないのに。先輩の頬がさらに赤く染まる。
「先輩、今までのお返しです。付き合ってくれますよね?」
「は、はい。お嬢様❤」
震える声で、そして高揚する声で水瀬華蓮先輩はそう答えた。
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