第10話 みんなで海。二人きりの海。①
「う、海だぁぁ!!!」
お母さんの運転する車に乗せられて、私は視線の先に映る海に心を踊らされていた。
夏の太陽の日差しが、海に反射してキラキラと輝いている。カモメが遠くで鳴いており、さらにその奥から船の汽笛が聞こえる。私は年甲斐もなくはしゃいでいた。
「咲、あんた子供かよ」
「咲ちゃんは元気ねぇ」
「ふふ、お嬢様かわいいです」
後部座席には、左から神埼麻也香(かんざきまやか)ちゃん、柊天音(ひいらぎあまね)ちゃん、そして水瀬華蓮(みなせかれん)先輩が乗っている。
「まぁ、咲ちゃんのテンション上がるのも無理ないわね。なんたって今日は貸し切り。思う存分楽しめちゃう」
今日は向かっている所は、お父さんの古い友人が経営するリゾートホテルの前にある専用のビーチなのだ。
「そうだよね。だってこんなところ普通は行けないんだよ。そりゃ興奮しちゃうよ!」
「確かにそうだけどさぁ」
本来こんなリゾートホテルなんか高くて庶民が来れるはずなのだが、そこに泊まれる理由があった。
このホテルはどうやら改装工事をするらしい。条例の変更等の理由で一部建て替えを行う必要があり、今は一般客向けに利用出来ない状態なのだ。
お父さんの友人さんもこの夏真っ盛りの季節にそんなことになったら気の毒だろう。お父さんはその友達にその相談を受けて、色々と労ったらしい。
そしてそのお礼として、工事施行前の営業していない数日を私達が泊めてもらうことになったのだ。
「でもお父さん来れなくて残念ねぇ。元々お父さんのおかげなのにさ」
「出張のせいだから仕方ないよ。でも出張先でその友達と遊んでるらしいからいいんじゃない?」
そう。この豪華お泊まり会の立役者となったお父さんは仕事の関係で来れていないのだ。せめてお土産をたくさん持って帰らなければ。
「よし、ホテル前に着いたわよ」
海が見えてから話しまくりだったので、ホテルの前にたどり着いたのはあっという間だった。その近くに地下の駐車場に向かう入口があったのでそこに向かう。そして駐車場に入り、車を止めるとみんなそこから降りた。
「あらぁ、がらがらねぇ。こんなに広い駐車場なのにね」
着いたのは、明かりが照らされた周りの壁が白色の綺麗な駐車場。普段の灰色の位イメージの地下駐車場とはまるで違う。
ちょっと海外の邦画のようなこの光景にこのホテルの高級さを感じてしまう。
ただ今日は貸し切りとなっているためか車は全然止まっていない。数台は止まっているが、これは宿泊客ではなくて従業員のものだろう。
「さぁ、行きましょう。駐車場から直接ロビーに行けるみたいよ」
母の先導で、ロビーに向かう入口へと歩く。駐車場の自動ドアを抜けて、先にあるエスカレーターで昇る。そうすると受付までたどり着いた。
「ようこそお越しくださいました。お話はオーナーお聞きしております。4名様でお間違い無いですね」
「えぇ、頼むわ」
受付にはホテル服を着た非常に美人な女性が立っていた。ホテルは本来、休止中だというのに彼女は丁寧に受付をしている。
「今日は何部屋でお取りましょうか。今日は貸し切りでございますので、好きなだけお取りできますよ」
「へぇ、そうなの。どうするみんな。もちろん大きな部屋で5人一緒でもいいし、別れるのもありね」
受付嬢の方はなんとどの部屋も好きなだけ借りてもいいと言ってきた。すごい太っ腹である、本当にお父さんに感謝しない。でもとりあえず先輩と二人になりたいな。面と向かっては恥ずかしくて言えないけど。
「おばさん、私は天音と一緒の部屋で取るよ。それでいいよな天音」
すると麻也香ちゃんはこっそりと私にウィンクをしてきた。私のことを察してくれたのだろうか。
「じゃあ麻也香ちゃんと天音ちゃんは同じ部屋で取るわね。そしたら私はお父さんと話すことがあるから一人で取ることにするわ」
「じゃ、じゃあ私は先輩と」
お母さんは一人で部屋を取る。ということは私と先輩が一緒の部屋に。胸が自然と高鳴り、先輩に視線を移すと彼女も頬を赤らめていた。
★★★★★★★★★★
「すっごい広い!!!」
受付から数分後、私たちはエレベーターで最上階に向かい、そこのVIP部屋と呼ばれた所に来ていた。私と先輩、天音ちゃんと麻也香、お母さんの三組はこのフロアの各部屋に泊まることになった。
そして私たちの部屋は、ドアを開けた先に窓から外の海が一面に見れる絶景が広がっていた。しかもダブルベットが置かれており、内装もかなりおしゃれな外観である。
「わぁい!!」
私はそのまま年甲斐もなく子供のようにはしゃいで、うつぶせになってベットに飛び込む。とてもふわふわできもちがいい。
「はぁ、これはすぐに寝ちゃいそうだな」
さすが高級ホテル。ベットは羽毛でふわふわで心地が良い。家とは全然違う。すっごく睡魔に襲われる。
「あぁ、いけないな。こ、このあと、みんなと海に行くのに。うとうとと」
これはいけない。あまりの心地よさに意識が遠のく。だけど次の瞬間。
「ひゃ!?」
突然、体に重みを感じた。先輩がなんと寝転ぶ私に覆いかぶさってきたのだ。
「ではお嬢様、私と一緒に寝ちゃいますか?」
「うわひゃ」
そして先輩は私の耳をはむっと咥えてきた。たまらず変な奇声をあげてしまう。
「せ、先輩だめですよ。まだお昼だし」
「その言い回しだと、夜ならいいというわけですか」
「ち、ちがいます。そりゃ先輩とイチャイチャしたいのは確かですけど。だ、だめですよ!!」
先輩は頬を赤らめて、そして私をすりすりと身体を擦り付けてくる。先輩いつもより激しいような。
「だってずっと我慢していたのですから。ご友人もおらっしゃる手前ではこんなことは出来ませんので」
「せ、先輩……」
「近くにいるのにお嬢様不足なんです。せめてぎゅっとさせてください」
そういって先輩は私の背中に向かって思い切り抱きついてくる。すごくあったかい。そして私もどんどん胸が高鳴ってくるのがわかる。
「じゃ、じゃあ私も先輩とぎゅっとします」
そういって私は体を振り返り先輩と顔を合わせる。そして先輩と抱き合った。そして自然と自分の口を先輩の口元に持っていき、軽くキスをした。
「咲!!! 水瀬先輩!!!! 準備できたぁ!!!!?」
「「ひゃうぅ!!!???」」
その瞬間、突如として響き渡る麻也香ちゃんの声。私達は思わず、ベットから飛び降りてしまった。
「麻也香ちゃん、だめよぉ、チャイムとか部屋の固定電話があるのにいきなり声かけたら。お楽しみだったらどうするのぉ?」
「まだ昼前だよ。そんなことあるわけないだろ」
「そうかしら、ふふふ」
思い切り図星であった。今のがなかったらいろいろ危なかったかもしれない。
「うちら着替えたら。二人とも早くしてね。一階の受付で待ってる。でも遅くなると先に行っちゃうからな」
「咲ちゃん、先輩お先ですぅ」
そして麻也香ちゃんと側にいたであろう天音ちゃんは一階に向かっていった。
「お、お嬢様、着替えましょうか」
「は、はい」
私と先輩、ものすごく気恥ずかしくなりながら水着へと着替えるのだった。
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