海斗の告白

「女王さま。ものすごく激しかったですわ。私も頂いてよろしいでしょうか」

「待てマミヤ。海斗は一端家に帰す」

「家に帰してしまっては、わが国を救うことができませんが」

「先ほどの行為で数年分の精を得ることができた。私自身も随分若返っただろう」

「それはそうでしょうが」

「後は海斗に選択させる。好きな娘に告白するのか、それともここハートランドを選ぶのか」

「なるほど。美熟女に童貞を奪われた男が美熟女になびくのかどうかの実験でございますね」

「マミヤ。私は海斗の精でしっかりと若返っているぞ。今なら変化を解いても同年代に見えるだろう」

「これは失礼しました。女王様」

「では海斗を元の世界へと戻そう」

「はい」


 海斗は砂浜に放置した。

 すぐに目を覚ましたようだが、自分に何が起こったのかすぐに理解できていないようだった。


 海斗のおかげで魔力は充実しており、今なら何にでも変化できる。

 私は蝶の羽根を持つ小いさな妖精へと姿を変えた。そして、この姿は普通の人間には見ることはできない。


「えーっと。陽子ちゃんと泳いだんだ。陽子ちゃんは赤いスウェットスーツを着てて、そして秘密の場所へ行って紅茶を飲んで……!!!」


 思い出したようだ。

 一人で苦笑いをしつつ赤面している。なかなか純情でよろしいのではないだろうか。


 海斗は自転車に乗って家へと戻った。

 家族の会話から、どうやら親戚の家に夏休みの間だけ滞在しているようだ。そこで海水浴場の監視員のバイトをしていて、自分担当の時間帯にあの事故が起きたようだ。


心愛ここあちゃんとは仲直りできたのかい」


 叔母さんが海斗に声をかけた。


「まだだよ」

「あんたの責任じゃないって何度も言ってるじゃないか」

「そうなんだけど、でも正面から話せないんだ」

「しっかりしなさいよ。男の子なんだからさ」


 それは違うぞ叔母さん。

 今日、海斗の童貞は私が奪った。だから海斗は男の子ではなく男だ。一皮剥けているのだ。


 ふふふ。

 私は照明器具の横でほくそ笑む。


 風呂を済ませ、食事が終わったころに近所の小学生が家を訪れた。


「海斗兄ちゃん。花火しよう」


 近くの子供が集まり、海岸へ出て花火をするらしい。

 海斗もその子と一緒に外へ出た。


 小学生だけではなく中学生や高校生もいた。それでも十名ほどしかいなかった。その中に日に焼けた女子がいた。スリムでやや背が高いのだが胸元は少し寂しい。「心愛姉ちゃん」と子供たちに呼ばれている事から彼女がその人だとわかる。海斗が気になっている女の子だ。


 私は少し恩返しをすることにした。

 魔力を使って。


 海斗から分けてもらった精のおかげで、私の魔力は相当回復していたからだ。


 小学生がはしゃぎまわる。

 その横で二人きりになる海斗と心愛。


 さあ行け。

 人気のない場所へと。


 そして告白するんだ。


 海斗。君は一皮剥けた男なのだ。


 私の期待通り、海斗は心愛を誘い人気のない岩場へと歩いて行った。


 途中に酔っ払いがいたのだが、容赦なく魔力で心臓を握りつぶした。これで数時間は目覚めない。


「ごめん」

「何が?」

「僕は最初に気づいてあげられなかった」

「いいんだよ別に。脚がつっただけだし。少し海水飲んじゃったのがきつかったけど」

「ごめん」

「だからいいって」

「ところでさ。海斗。何か言う事あるんじゃないの。謝るだけだったの」

「そうだね」


 海斗は恥ずかしそうに俯いた。そして意を決したように心愛を見つめる。


「僕は……僕は心愛の事が好きだ。大好きなんだ」


 よっしや!

 言い切りやがった。流石は一皮むけた男だ。


「私もだよ。海斗の事が好き」


 そう言って心愛は海斗の頬を両手で抑えて唇を重ねた。

 すぐに離れる二人。


「今のは私のファーストキスです」


 真っ赤になって俯いている心愛。

 なかなかに可愛らしい。


「僕は……」


 馬鹿。本当の事を言うんじゃないぞ海斗。


「いや。僕も初めてです」


 よし!

 嘘も方便だ。童貞を捨てた事も黙ってろ。


「海斗は私のカレシだって。そう思っていいんだね」

「いいよ。僕たちは付き合ってるんだ。毎日メールするよ」

「約束だよ。海斗が帰っちゃったら物凄く寂しいんだから」

「分かってる」

「ありがと。もう帰るね。さよなら!」


 心愛は走って去っていく。

 海斗は黙って彼女の後姿を見つめていた。

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