小説家
落ちぶれた小説家がいた。
名前はいらないだろう。なにせ、落ちぶれているのだから。
小説家の書く小説は誰よりも面白く、そして癖がある名作ばかりだった。
だが時代は萌えを求めていたのだろう。
彼の古風な小説は食わず嫌いされ、ありきたりで軟派な小説を書く小説家に追い越されていった。
小説家は悩んだ。何故自分の小説は敬遠されるのか、と。彼は思い付いた。
最近の小説の様に、若者に喜ばれそうな挿し絵と表紙を付ければいいのではないか。小説家はすぐさま、高い金を払い、最高の絵描きを雇った。
その本を出版した時、小説家はこれほどまでにない期待を膨らませていた。
だが世間は古風なタイトルに目がいってしまい、やはり敬遠されてしまった。
小説家は次の小説の執筆から、若者受けしそうなタイトルをつけることにした。
それはいかにも若者が好んで読みそうなタイトルだった。
出版して一週間後、タイトルと中身が全く違う、と苦情がきた。
最近の若者はどうも昔話のような夢を求めているらしい。
小説家は次からファンタジーに挑むことにした。
勿論若者受けしそうな設定やキャラ、作風を必死に研究した。
その作品は名作としてネットやクチコミで広められたのだが、初期からの小説家のファンは、自然に離れていく。
それは、小説家の元々の作風を好んでいたからである。
名作と言われ2 年、若者は別の作品に流れていった。
若者は流行りにのっかるしか能がなく、ぽっと若者受けする名作を書いただけの小説家に注目する者はいなかったのである。
かくして、小説家は自己のアイデンティティーとファンを捨て流行りを目指した挙げ句、大衆からも見放されて更に落ちぶれていくのであった。
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