未来予知

「聞いてくれるかい、僕は未来予知が出来るんだ」

長年の友人である彼は唐突に話はじめた。

「ふーん、未来予知ねぇ。それなら誰でもいいから、そいつの未来を予知してごらんよ」

「ああ、いいだろう。これから一時間後、“そいつ”は痴漢をかけるのさ。満員電車の中で、ね。」

「ほう、そいつは欲望も抑えられない猿のような人間なのだろうな」

僕が鼻で笑うと、彼はコホン、と咳をし、話を続ける。

「しかし、だ。”そいつ“は大きな失敗をしたんだ。」

「どのような?」

「簡単に言えば、女装している男の尻を触っていたのさ。それで得することもなく警察に捕まる」

そいつ、というのはかなりのマヌケらしい。流石に女と男の見分けくらいはつくだろうに。

「続けて」

「まあ痴漢の件は被害者が穏便にすませてくれたお陰てやむなきことを得たのだが、それから数十分後、“そいつ”はムシャクシャして石を蹴ったんだ。それがヤクザの車に当たり、一時間程追われる事になる」

そいつというのはマヌケなだけではなく、運まで悪いのか。流石に笑えてきたぞ。

「ははは。それで?」

「ああ、“そいつ”は結局ヤクザに捕まるのさ。だが不幸中の幸いというべきだろうね。サイフの中の金を取られるだけで済んだのさ」

「だがすっからかんというのもかなりきついな」

「そうだね。“そいつ”はすっからかんは御免だ、と思ったんだろう。そこらへんの奴等をターゲットにスリを始めた。」

マヌケで欲望も抑えられない猿な上、運も悪い悪人か。生きてて楽しいのかいささか疑問だが。

「だがやっぱり“そいつ”は運が悪い。格闘家に対してスリをはたらいてしまい、返り討ちにあう。入院までまっしぐらさ。」

「ははは。とても面白いホラ話だった。それじゃあ時間も時間だし、私は帰るよ」

私は友人と別れ、満員電車へと足を運んだ_______________________

「君は本当にマヌケだなぁ」

ベッドの上に横たわる私に対して、ため息混じりで彼がそんなことを言っていた。

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