カメレオン

とある朝、実験で特殊な力をもったカメレオンが動物園から脱走した、というニュースがながれてきた。

それを見た俺は、スクリーンに映された写真と、目の前にある爬虫類を見比べる。「ふむ、それじゃあお前が動物園から脱走したカメレオンなのだな」

「ええ... その通りです。ですがあすこにはもう戻りたくないので... 見逃して頂けないでしょうか...」

「おかしな事を言う。動物園に住んでいれば、食と住は保障される訳であろう。何故、あそこを嫌うのだ」

「それは... あっしの口からはとても言えません。ただただ地獄の日々を過ごしてきたのです...」

「ほう、そこまで拒絶しているのであればつき出すわけにもいかぬな」

その言葉を聞くと、カメレオンは安堵する。

「ありがたや... ありがたや... それで図々しい願いなのですが聞いてくれやしないでしょうか」

困っている輩を見捨てるわけにもいかないので、渋々耳をかしてやる。

「これから逃げながら生活をするには人間の姿が必要なのです。どうか、貴方の姿をお貸ししていただけないでしょうか」

ふむ、これは驚いた。こいつは人に化けることが出来るのか。

「まあよいが、2 つ程条件がある」

「条件、といいますと?」

それから定期的に金を寄越す事、犯罪を犯さないことを約束に私の姿を貸してやった。

カメレオンが化けた直後だ。

警察が銃を構えながら部屋に入ってきたのだ。

「実験体M はどこだ!」

「ええ、ここですとも。こいつが私を脅し、成り代わろうとしてきたのです。どうかこいつを捕まえてください」

カメレオンは私を指差し、そんなことをほざきやがる。

なんて事だ。こいつは最初からそうするつもりだったのだろう。

それから俺が本物だ、と主張するも戯言と受け流され動物園に送られてしまった。

見世物になるのは恥ずかしいが食と住を保障してくれているので、そんなに不満はなかった。

それと時々、あのカメレオンが金を渡しにやってくる。

約束は守っているようなので、何も言ってやらないようにしている。

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