ランプの魔人
自殺の準備もそろそろ大詰めになってきた頃だ。
迷惑をかけないよう、キチンと退職届を出し、誰にも見付からないように秘境を下調べしてきた。
自殺をすると保険は降りないはずなので、家具を全て売り払い、その金を家族への仕送りとして送金してきた。
手元にあるのは、幾分かの金と値が付かなかったガラクタと自殺に必要な道具のみだ。
とうとう明日決行、という夜にガラクタの中の一つが光はじめた。
何かと目を見張ってみればランプだった。
ランプの中からいかにも、という感じで魔神が飛び出して私に語りかける。
「お呼びでしょうか。御主人樣」
いかにもという身なりでいかにもという喋り方でいかにもという事を言い出した奴に私は落胆する。
「別に呼んだ訳ではない。そもそもお前が勝手に出てきたのだろう?」
「ええまあそうなのですか... 私は御主人樣の人生を変える日の前日に現れるよう決められておりまして... つまり貴方樣が呼びだしたようなものなのです」
「なるほど... それじゃあ私の手助けをしてくれるって事でいいんだな?」
「ええ... それよりこのガラガラの部屋は何なのでしょう」
ふむ、流石に私が明日何をするかは分からないらしい。
「自殺だ。この世界から消え去りたいのだ」
そう答えると魔神は大慌てになる。
「なりません御主人樣。貴方樣には私がついております。金が欲しいのなら用意いたします。女が欲しいのなら惚れ薬でも用意してイチコロに落としてみせます。だから自殺だけは...」
「そういう事ではないのだ魔神よ。私は金が欲しい訳でも女が欲しいわけでもない。ただこの世界から消え去りたいだけなのだ」
私の言い分に反論できないのか暫く悩んだ後、こう告げる。
「分かりました。それが御主人樣のお望みとあらば、この世界から消し去ってあげましょう」
痛みや苦しみをなるべく避けたかった私にとっては願ってもない話だ。
「ああ、頼むよ」
そう言った瞬間、意識が朦朧とし、体が透け始める。
ああ... これでこんな世界からおさらばだ... 来世は楽しい人生になることを願おう... 薄れゆく意識の中、そんな事を考えていた_______________________
「ふう... これで魂を確保だな...。それにしても死ぬのが望みなんて変な野郎だ。
まあ悪魔としてはそれの方が楽でいいのだが。さて、この魂を地獄に献上しに行くとするか」
男が消え去った部屋に、いかにもという身なりでいかにもという喋り方をし、いかにもという事を言う悪魔が佇んでいた。
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