第36話
俺は稲本の顔を見た。奴は真剣な顔で淡々と話し始めた。
「本当にすまなかった…お前にも滝川さんにも、本当に悪いことをしたって後悔してる…俺のせいでこの工場もグチャグチャになっちまったからな。
四工から罰で来た奴から話しを聞いたら…水元の野郎がやらかしちまってるらしいな。全ては俺の責任だ…」
『…もういいっすよ稲本さん、もう済んだ事ですし、あんたが謝ってきた所でBE-CORE…滝川さんも四工には戻って来れないですからね。
…まぁ、もういいですから今後は問題を起こさない様にお願いします。取り敢えず自席に戻って下さい。』
まだ稲本は何かいいたげな顔をしていたが俺はシカトして自分の仕事に戻った。
翌日からというもの、工場の争い事は嘘の様に無くなり、四工に平穏が訪れた。元々稲本派だった人間は元の鞘に収まり、水元派は水元の部屋の人間だけになったからだ。
当然面白くない水元は、稲本に対し露骨な嫌がらせを続けた。それに対して稲本派の人間が何度も水元に喧嘩をふっかけそうになったが、その度に稲本がそれを制し、問題の無い日々が続いた。
最初はずっとシカトしていた俺だったが、そんな稲本のひたむきな姿勢に心を打たれ、少しずつ奴と打ち解けて行った。
時は過ぎ、カラオケ大会まで残り2日となった日の運動の時間、稲本が話し掛けてきた。
「TOY、いよいよカラオケ大会だな!調子はどうだよ?」
『調子も何も…』
「絶対に優勝しろよ!…そう言えばTOY、俺は今日から雑居だ!」
『えっ…?どこですか?』
「水元の部屋だ!俺から頼んだんだ!…まぁ上手くやるよ!それより…マジ頑張って絶対に優勝しろよ!」
『稲本さん…水元の部屋って…大丈夫すか?ちょっ…稲本さん!?』
稲本は俺を無視して先を走って行った。この時、俺は何か嫌な予感がしたんだ。
翌日、その嫌な予感は的中した。
水元の部屋の人間はだれも工場に来なかった。もちろん稲本も…オヤジに聞いたら、昨夜稲本が暴れて全員と乱闘になって懲罰になったらしい…
運動の時間になって稲本派の人間が俺に全てを話した。
「稲本さん…この工場に戻る事が決まってからずっと考えてたらしいです。けじめをつける方法は無いかと…そんな時に水元の話しを耳にしたらしくて…」
『…』
「それと…伝言を預かってます。…娑婆に出たらMC BATTLEの続きをやろうって…」
稲本は真の男だ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます