第35話

「おい!貴様ら何をやってるんだぁ!」

鳴り響く警報サイレンと共に今日も四工に警備隊がなだれ込んで来た。


ここ数日、毎日の様にTOY派と水元派の争いが続き、一週間で8人が懲罰へと行ってしまった。


しかもTOY派の人間に限っては全てTOYと同じ部屋の人間である。


現にTOY自身も二回程ハメられそうになっていた。





いつもの様に運動の時間となると水元が近付いてきた。


「全く…てめぇの部屋の人間は荒っぽい野郎が多くて困るなぁおぃ…」


『…』


「やっぱり部屋長の教え方が悪いんじゃねぇのかぃ?」



…その時である。担当のオヤジの前に、処遇に連れてこられた罰明けがやってきた。


「また罰明けか…どうせロクな奴じゃねぇだろ……えっ……稲本さん…?」





…!?





水元のくだらないペラをシカトしていた俺は驚いて親父の方を見た。そこには確かに稲本がいたのである。


先日のメグからの手紙を見て、気持ちが収まっていた俺だったのに、奴を見た瞬間に頭が真っ白になった。気が付いたら俺は稲本の方に駆け寄ってたんだ。


『…てめぇ、何しに…』


「止めろ!運動が終わったら本人から話しがあるから!」


事情を察したオヤジは俺を遮り、怒る事無くそう言った。



運動が終了し食堂で休憩となると、オヤジと稲本が前に立った。ザワザワしていた食堂は誰が合図する事無く一斉に静まり返った。


「今日から稲本が戻ってきた。こいつは計算係を任されながらも、とんでも無い事をやってくれた。過去もあるかもしれないが関係無い。こいつは今日からこの工場では新人だ!それを承知で帰ってきたんだからな。こいつからも一言あるから聞いてやって欲しい。」


そう促されて、悲壮な顔をした稲本が話し始めた。


「この度自分はTOYに対して、己のプライドを崩された事に腹を立て、とんでもない事をしてしまいました。本来なら帰ってくる立場ではありませんが、こうして担当の先生に戻して頂いた以上、気持ちを切り替え一生懸命頑張りますので、皆さんお願いします。」


そう言って深々と頭を下げると、まばらな拍手が起きた。




作業開始となり、俺は呼びたくないが稲本を呼んだ。入ってきた人間の服やロッカーを用意するのも衛生係の仕事だからさ。


俺は奴の顔を見る事無く、黙々と作業をしていた。一通り奴の荷物を整理したので、後は戻れと手で促した。



「TOY…ちょっといいか?」

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