第21話
無音
懲罰が確定し、病舎から懲罰房へと送られたTOYは、その三畳に満たない部屋の真ん中にただ何もする事無く座らされていた。
鉄格子付きの窓から射す太陽の光が壁に伸び、その伸び具合がTOYに取っては時計変わりとなっていた。
…あと二時間…一時間…
日が経つ事にその時計は正確さを増し、無音の部屋に一日中いるTOYの神経は研ぎ澄まされていった。
「1229番、投薬」
いつもの様に刑務官が睡眠薬と精神安定剤を持ってきた。
『先生、自分もう薬が無くても大丈夫です。医務に連れて行って下さい』
医務で診断を受け、徐々に薬の効果を弱める様に勧められたが、TOYはそれを断り、その日に薬を断った。
夜になり、薬で眠らされていたTOYはさすがに眠れず、築何十年と経った汚い天井をじっと眺めていた。
…ザァ…ザァ…
夜の暗闇の中を走る風の音、それに混じる虫の声。
懐かしい…
この音を聞いたのはいつ以来だろうか。いや、ずっと聞いていたのだろう。でも、これを音として感じたのは少年の時以来だった。
TOYは明るくなるまでその音を聞いていた。6時半に起床を告げるチャイムが鳴るまで…そのチャイムの音が、人間の作った音は所詮自然の織り成す音には叶わないと教えてくれたと同時に、TOYに一つの事を気付かせ、安心させた。
俺、やっぱり音が好きだ。
それからは早かった。懲罰中は手紙も便箋も一切持つ事は出来ないが、無音の部屋の中TOYは頭の中に残るRIDDIMを元にリリックを作り始めた。書くものが無い分、素晴らしいリリックは頭に残り、大した事の無いリリックは頭から抜けていった。その作業を繰り返し繰り返し、あと少しで曲が完成するという時に、30日という有意義な懲罰生活は幕を閉じたのだ。
懲罰が終わると同時に、溜まりに溜まったメグからの手紙をまとめて貰った。日付の古いものから順番に読み、一番新しい手紙の封を切った時、俺は頭を鈍器で思いっ切り殴られた位の衝撃を脳に受けた。でも、過去には戻れない。これから態度で示していくしか無い。そう思うしか無かった。
翌日、再び懲罰審査会のあった部屋へ連れて行かれ、新しい工場の言い渡しがあった。
「1229番、第4工場」
正直不安もあったが、TOYは前を向いていた。何があってもやり抜く決意があった。
その日の風の音は、TOYを励ます様に強く優しかった。
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