第6話 長女の思春期

「しかし、けるなあ。生ゴミの腐っちゃったやつにでもなった気分だ」

 今だって、食事を終えたらさっさと自室にこもった。追加で塩を振った枝豆を口に運ぶ。


「あなた、塩分とりすぎよ」

「夏だからいいのさ」

 お前はふぅとため息をついた。塩のことかと思ったら違った。


「あなたがショックを受けると思って黙ってたんだけど……」

「お前は気にするな。どうせ俺の洗濯物と一緒に洗うなとかいう話だろ」

「残念ながら正解ね」


「まあ、経験者のお前なら分かるだろうけど、ついに来るべきものが来たって感じだな」ビールを口に運ぶ。なんだかいつもよりも苦い。

「分かるけどねえ……」お前は不服そうにちょっと口元を曲げた。


「なんでそうなるか知ってるか?」だぁめ。塩の容器を掴んだ手を握られた。

「思春期だからでしょ」なおも手を離さないので諦めた。

「思春期の女の子がなぜそうなるのかという理由さ」すきを狙って瓶を手に取る。

「さすがにそこまでは知らないけど」枝豆の皿を両手で覆いながらお前は首を傾げた。諦めて瓶を置いた。


「できるだけいい種を残そうとするからだな。それを嗅ぎ分けるのは、まさに嗅覚きゅうかくだ。匂いなんだよ。遺伝子的に遠い異性を選んで強い子を産もうとする本能だから仕方がないさ。日奈子には半分俺の血が受け継がれてるから、近種の匂いを嫌うのさ。

まあ、これがずっと続くわけじゃないからな。父は冷たい仕打ちにも耐えるしかない。お前だってそうだったろう」

「うん。結婚するあたりかな、完全に元に戻ったのは」


「そんなもんだ。南京玉なんきんたますだれだ」

「なんで」

「聞きたい? 聴きたければ歌ってあげてもいいけど」

「南京玉すだれは知ってるけど、たいそうもったいつけるのね」


「アさて アさて アさてさてさてさて」歌に合わせて手を叩く。日奈子に聞かれると鬱陶うっとうしがられるから声も手拍子も小さく。それを聞くお前は不思議そうな顔をした。


「さては南京玉すだれ チョイと伸ばせば 浦島太郎さんの うお釣り竿にチョイと似たり 浦島太郎さんの 魚釣り竿が お目に止まればおなぐさみ」 


「まだ続くの?」

「お目に止まれば元へと返す、まで歌わせてくれないと歌った意味がないってば。南京玉すだれは、どんな形になっても必ず元に戻すんだから」


「あ、そか、そういうことね。それはごめんなさい」

「なんか不完全燃焼だな。心がぷすぷすいってる」

「ごめぇんなぁさいッ。でも、言っておいた」お前は小さく頷いた。


「日南子がそう思うなら仕方がないけど、あたしはお父さんが好き。お父さんを好きになったからこそ、あなたが生まれたんだからねって」

「ありがとな。さすが我が女房だ。感謝感激雨あられだ」

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