第5話 長女の幼稚園

 小さいけれど、ローンを組んで建売を買った。ようやく子供たちの実家ができた。先行きの不安もなくはなかったけれど、恐れはなかった。


「日南子がね、幼稚園で毎日泣いてるんだって」お前はうれい顔で俺を見た。

「え! なんで?」


「お母さんがいないって、毎日泣いてるんだって。先生も困ってるみたい」

「そうかあ──案外内弁慶なんだな。でもなあ──かわいそうだけど、こればっかりは慣れてもらわないと先々が大変だしな」


 お前は、だよねえと頷いた。


 幼稚園を決める際は、二人で近隣を自転車で回ってみた。もちろん俺の自転車の前には日南子が、お前の前には翔次郎が座っていた。だから、正確には四人なのだけれど。


 どれもこれもピンとこない中、園庭が広くて、遊具も緑も多い幼稚園があった。

「ここ、いい!」二人の意見は一致した。それがいま通っているところだ。


「公園で遊んでた子たちの中で、あそこに通ってるのは、たっくんとまゆちゃんぐらいしかいないのよね。たっくんは優しいんだけど、へなへなしてるし、まゆちゃんは気が強いしね。だからあまり気は合わないみたい」


「辛抱だな。俺たちも、ひなも。甘い父親の意見だろうけど、とことん抱きしめてやれ」

「うん、分かった。翔はマイペースで大丈夫そうだけどね」

「ああ、あれはワレ関せずタイプだからな」


 リビングテーブルの灰皿で煙草をもみ消し、二人の寝顔を見るために隣の部屋のベッドに向かった。

 そっと腰をかがめ、日南子の寝顔を見た。


 人は生まれて、人々の中で生きていく。慣れない他人との付き合いは、明らかにストレスのひとつだろう。


 苦労してるな。最終最後は、どんな手を使ったって、お父さんとお母さんが守ってやるからな。頑張れよ日南子。

 娘の頬を指の背でなでた。


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