第4話 長男の命名

 鍋も食べ終わり、きれいに片づけられたこたつの上に、ボールペンで走り書きした紙を滑らせた。

「健次郎? なんか古臭くない?」

「逆に、今の時代じゃ個性的でいいじゃないか。すぐに覚えてもらえるよ」


「あたしはねーしょうの字を入れたいんだ」

「しょう?」

「そう、これよこれ。えーとね、あぁ──書けない」

 君はあきらめてボールペンを置いた。


「とぶ、のしょう。飛翔の翔」とても飛べそうもない仕草で両手をばたばたとさせる。

「おいおいおいおい、待ってくれよ。それって流行りじゃないか。クラス中、翔だらけになりそうな勢いだろう」


「だから、翔に続く文字で工夫をすればいいのよ」


「ううむ……しょうの字に続くといえば、翔之助か」

「苦し紛れに何それ? 行司⁉ 息子を行司さんにする気なの? はっけよいなの⁉ 冗談よねえあっくん」

「まあ、軽い冗談だけど」

「まじめに行こうよ」


「じゃあ、翔左エ門は」

「しょうざえもん? 歌舞伎⁉ いちいちアクションの大袈裟な子にしたいの」

「まあ、冗談だけど」

「ま、それはわかるけど」


 長女の日南子ひなこの命名には一も二もなく賛成したのに、そこは女性なのか、男の子の名前にはこだわった。

 その日南子はレゴで遊んでいた。


 すったもんだの末、翔次郎と命名した。


「ま、いいわ。あたしは翔ちゃんって呼ぶから。ひなちゃん、おとうさんは強情よね」


 強情の意味など分からないはずだけど、レゴを持った日南子がにゅっと笑った。

「ごうじょー。おとうさんはごーじょー」


 未来は、俺たちの前に洋々と広がっていた。

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