第7話 バージンロード

「俺は嫌だからな」

「そんなこといったって、娘の晴れの舞台なのよ」

「嫌なものは嫌だ。なんでバージンロードなんてとこを娘と歩かなければならないんだ」

「そういうもんなんだって」


「だって、おかしいだろ? 日南子を連れてあんなとこ晒し物みたいに歩いて、挙句の果ては男に渡すんだぞ。欲しいのなら向うから来て頭を下げるべきだろ」


「だからあ、そういうもんなんだって。それに、卓実君を男なんて呼んじゃダメよ、息子になるんだから」


「別に教会式でやるって決めたわけじゃないからさ。まあ、お父さんの意見も考慮に入れておくわ」日南子が呆れた顔をした。


 俺はうんうんと頷いてから、グラスに半分残ったビールを飲みほした。

「もしも教会式を強行したら」

「したら?」お前が片眉を上げ、興味半分恐れ半分の顔で俺を見た。


「お父さん当日失踪決定だからな」

「やれやれ。お父さんってさ」お前が日南子を見る。

「なんか、どんどん頑固おやじになっていくわね。若いころナナハンを飛ばしてた、笑顔の素敵な人とは思えないわ」


「ナナハンとこれとは関係ないだろ」

「おおありよ。あたしはナナハンにまたがるあなたに惚れたんだから。あれが自転車だったら今頃違う子供を産んでるわよ」


「お前、そんな言い方はないだろう? 日南子と翔次郎に申し訳ないとは思わないのか」


「なんか面倒くさいから、あたしもう寝るわ」日南子があくびをした。


「それにさ、二人が一方的にあたしを生んだんじゃなくて、あたしが二人を親と決めて舞い降りてきたんだからね。あたしの意志を無視しないでよね」

 リビングの椅子から立ち上がった日南子が、パジャマの尻を掻きながら歩き去った。


「若い娘が、尻掻くなって」

「痒いもんは痒い。夜痒くても浅香唯」

「なんだそれ」

「さんま。おやすみ」

「あぁ、はい、おやすみ」


「俺はさ、ナナハンの前にはカワサキのボブキャットに乗ってたんだ。125㏄な」

「それ、今言う話?」


「ちょっとじゃじゃ馬だったけど、なかなかいいバイクだった」

「あたしも、もう寝るわ」

 お前の後ろ姿は、少し怒っていた。


「美紀、ビールもう一本飲んでいい?」

「いいけど、それで終わりにしてよ」

「うん」

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