第10話 A walk at night(夜の散歩)

僕と山田は部屋のキーをフロントへ預けてホテルの門を出て行った。いつも思うだがこの門を出ると出ないとでは、まったく空気感が違う。このホテルが、神々に守られているから、街の喧騒から一歩違った空気なのだろうか。


僕と山田は、アグン・コテージを出るとジャラン・レギャン通りを右手へ曲がった。というのも僕の行きつけのウォーターメロンジュースの店があるからだ。この店は、ホテルに隣接しており、レストバリというホテルに併設している2Fにあるレストランである。


僕と山田は、僕がいつも座るジャラン・レギャン通りに面した席へと着いた。レストランは2階へ石造りの外階段から上がり、窓のない吹き抜けの作りとなっている。葦の簾があり、それが窓代わりになっている。床は木のフローリング。壁にはバリ島の大きな地図がかかっている。それぞれのテーブルにはろうそくがランプ代わりとなり、各テーブルに置いてあった。人工的な光出ないろうそくの明かりが、なんともいえずバリ島の夜にはゆく似合う。


僕「バリ島へ来ると、必ず、このレストランへ立ち寄るんですよ。そして、ここでウォーターメロンジュースとナシゴレンをオーダーするんですよね。ナシゴレンもこの店のものは絶品なんですよね。いろんなお店のものを食べてみたんですが、やはり、ここのものが僕の口に合うみたいです。スイカの果汁とシロップのバランスが絶妙なんでしょうね。」


山田「そうですか。楽しみです。酒井さんの口に叶うものであれば、間違えない食事がとれそうですよ。楽しみです。」


僕は、そう山田へ告げると店員をインドネシア語で呼んで、メニューを僕たちの席へもってきてもらった。席へ持ってこられたメニューを見ながら、まったく値段の変わらないいつものメニューだと僕は「ほっ」とした。


このレストランはホテルに隣接している割には値段がかなり安い。現地の人からすると高いのだろうけど。


山田「酒井さん、このお店のウオーターメロンジュースって、酒井さんがいつもおいしいっていってらっしゃったところですか。」


僕「そうですよ。ここのジュースは絶品なんですよ。ナシゴレンもいけますから。ぜひ山田君もオーダーしてみてください。」


山田「了解です。それと先ほど店員さんへ話されていたのはインドネシア語ですか。」


僕「そうですよ。僕の大学の専攻はインドネシア語でしたからね。少々話せますよ。バリ島で過ごしても、あまり困ったことはないですね。」


山田「すごいじゃないですか。俺、英語もままならないんですけど。」


僕「語学って結局のところ、切羽詰まらないと身に付きませんからね。」


山田「そんなもんですかね。」


そんな会話をしながら僕は、店員を呼びナシゴレンとウオーターメロンジュースを、二人分オーダーした。店員は、僕のことを覚えてくれていた。


僕「Kami mau makan nasi goreng dua dan minume watermekonjyuci dua。」


店員「お客さんは、酒井さんですか。」


僕「そうですよ。どうして僕の名前を知っているんですか。」


店員「いつバリ島へ来られたんですか。覚えていますよ。マルチンとよくいらっしゃっていましたよね。」


僕「そうですね。マルチンと僕のことを覚えていますか。バリ島へは、先ほど到着したばかりですよ。」


店員「もちろんですよ。でも、酒井さん、マルチンは、いまはバリ島にはいないんですよね。以前あったスマトラ沖地震の津波で、亡くなってしまいました。」


僕「そうなんですね。その事実を知り、実は今回バリ島へ訪れたのもマルチンの供養のためでもあるんですよね。」


店員「そうなんですね。マルチンも酒井さんがまたバリ島へ来てくれて、喜んでいるんじゃないですかね。」


僕「そうだったらいいんですけどね。」


店員「そうそう、実はマルチンの弟が、今、バリ島で働いているんですよ。ちょうどバリ島へ出稼ぎに来ているんですよ。」


僕「マジですか。そうなんですか。マルチンの弟さんへ会いたいんですけど。どうすれば会えますか。」


店員「じゃ、僕がマルチンの弟と友達なんで伝えときますよ。滞在はいつまでですか。」


僕「今日から11日間バリ島へ滞在しるんですよ。」


店員「じゃ、明日はいかがですか。丁度、僕も休みなので、同じ時間帯ではいかがでしょうか。」


僕「明日でOKです。明日もまた食事に来ますので。その時にセッティングをお願いしますね。時間は21時ごろでいかがですか。」


僕「はい、よろしくおねがいします。」


僕は定員とインドネシア語で会話をしていた。その様子を山田は、きょとんとして眺めている様子だった。


山田「酒井さん、今の会話ってどんな内容の話だったんですか。」


僕は山田へ店員とのやり取りを説明した。


山田「酒井さん、すごいじゃないですか。先ほどの店員さんが、マルチンさんの弟さんの友達だったんですね。偶然というか必然というかすごい奇跡ですよね。なかなかこういった出会いってないですよね。」


僕「そうですね。これもまた偶然というか不思議ですね。マルチンが会わせてくれた感じですよね。」


山田「きっとそうですよ。俺もそう思いますよ。おそらく、マルチンさんが酒井さんへ会いたいっていう気持ちがそうさせたんじゃないでしょうか。魂が呼んでいるって感じがしますね。」


僕「そうだと思うよ。偶然にもマルチンの身内に会えることができるなんて、すごい偶然ですよ。本当に呼ばれているって感じが伝わってくるよね。」


僕はこんな偶然の出来事に、縁の不思議さを実感した。まもなくすると、店員が料理をテーブルへ運んできてくれた。


店員「ナシゴレンとウオーターメロンジュースをお二人分おもちしました。どうぞ、ごゆっくりとお召し上がりください。」


僕「ありがとうございます。」


山田「ありがとうございます。」


僕と山田は、店員へお礼を言って、まずはウォーターメロンジュースを口に含んだ。


僕「これ、これ、これ、この味なんだよね。僕はすごく好きなんです。このウォーターメロンジュース。」


僕はこのウォーターメロンジュースがまた飲めて本当にうれしくなった。僕の次に山田もジュースを口に含んだ。


山田「酒井さん。マジうまいですね。このウォーターメロンジュース。絶品ですよ。この味、俺、大好きですよ。」


僕「山田君に是非ともこのジュースを飲んでもらいたかったんですよね。」


山田「酒井さんのおすすめのジュースをもう一度飲みます。」

といい、山田はウォーターメロンジュースを二口三口と飲み始めた。


山田「酒井さん、このジュース、超うまいんですけど。酒井さんがおいしいっていう理由がわかりますよ。」


僕「そうでしょ。このウォーターメロンの果汁とシロップの絶妙なバランスが、いい感じなんですよね。」


山田は、僕が勧めているジュースに感動している様子だった。僕もその表情を見てうれしく思った。


僕は、通りの人の行きかう様子を何気なく眺めていた。山田もバリ島の夜の空気感を楽しんでいる様子だった。僕と山田は店員が運んできたナシゴレンを食べ始めました。この店のナシゴレンは、ケチャップとサンバルで味付けをしたライスに鶏肉などを入れて、焼き飯風となっている。ライスの上にはもちろん定番の目玉焼きが乗せてある。後はキュウリとベビーリーフのようなバリ島でとれた野菜とトマトをカットしたもの。サテが一本ついている。


山田「酒井さん、このナシゴレンもうまいですね。インドネシア料理って食べたことなかったんだけど、このナシゴレンは、俺の口にあいますよ。この半熟のたまごがナシゴレンに絡み合い、いい感じのまろやかさになっていますね。」


僕「それはよかったです。ちなみに雑学ですが、ナシはインドネシア語でご飯という意味です。ゴレンが焼くって意味なんですよ。つまり、日本語言うと焼き飯っていうところでしょうね。」


山田「そうなんですね。俺もちょっと雑学が増えましたよ。酒井さんは何でも知っていらっしゃいますね。」


僕「あと、知っておいていいインドネシア語は、日本語のありがとうって意味で、テリマカシというんですよね。それとあいさつも時間帯によって変わってきます。4つの時間帯があるんですよ。AM PM(12-14)(14-17)夜って感じで分かれているんですが、その辺りはインドネシアの感覚できっちりと決まっていないんですよね。そういったアバウトのところがまた味があるんですよね。」


山田「そうなんですね。インドネシア語でテリマカシですか。それって表記はどんな感じなんですか。」


僕「山田君も先ほどご覧なられたメニューにも書いてあった通りアルファベット表記なんですよ。インドネシアのそれぞれの島には、その島独特の言葉っていうのもありますが、それは標準語のインドネシア語とは、表記も全く違います。同じ国でありながら言語が違うとなると困りますから、今のインドネシア語が作られたんですよ。例えば、日本でいうところの方言のようなものでしょうか。このバリ島では、ローカルランゲージはバリ語というのがあります。そこまでは僕は勉強していないので、よくわかりませんが表記も独特のものですね。山間部の村へ行くとバリ語で記載がありますからね。」


山田「そうなんですね。」


僕「実は、インドネシア語ってもともとはなかったものですよ。作られて歴史は浅いんですよね。後、マレーシアのマレー語とも非常に似通っているんですよね。」


山田「そうなんですね。」


僕は山田へ知っているインドネシア語のうんちくを話した。山田も興味を持って聞いてくれた。


山田「酒井さん、インドネシア語の歴史も面白いですね。ますます、俺、バリ島へ興味を持っちゃいましたよ。」


そんな会話をしつつ、僕と山田は食事を終えレストランを後にした。

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