※第10章 5 最後の願い (性描写有り)

「諦めるのはまだ早いぞ。」


突如、薄れかけていた意識が戻って来ると同時に、誰かに力強く抱き締められた。

え・・?その声は・・・?

真っ白になっていた視界が徐々にはっきりと視えて来る。

そしてその視界の先には・・・。

独特のアベニューグリーンの髪にアッシュグレイの瞳・・・・・。間違いない・・。

「テ・・・テオ・・・・?!」


「ああ、そうだ。ジェシカ・・・。お前を助けに来たぞ?」


え?助けにって・・・?誰から・・・?テオは何処から来たの?



その時・・・4人のジェシカの声が頭上から聞こえてきた。


「約束が違うわ!早くその身体を返しなさいよっ!」

「そうよ!今まで散々好き勝手に使っていたくせに!」

「返さないと言うなら無理やり奪ってやるわ!」

「この偽物め・・・っ!早く元の世界へ帰りなさいよっ!!」



するとテオが私を抱きかかえたまま不敵に笑みを浮かべると言った。


「悪いな・・・。あんた達に取ってはこの女は偽物かもしれないがな・・今の俺達の世界にとっては、この女が本物のジェシカなんだよっ!お前達はもう必要無いんだっ!さっさと今のジェシカに吸収されちまえっ!!」


「な・・・何ですって・・・?!」

1人のジェシカが怒りを露わにして、こちらを睨み付けた。


「今まで貴女の中に閉じ込められていた私達の気持ちが分かる・・?」

「私が得るべきものを全て奪ったのよ?」

「アカシックレコードごと・・引き渡しなさいっ!」


「ご、ごめんなさい・・・っ!!」

私は両耳を押さえてジェシカ達に叫ぶ。


「ジェシカッ!あの女達の言う事に耳を貸すなッ!あいつらが何を言おうと・・・俺にとって・・いや、俺達皆にとっての本物のジェシカはお前なんだよっ!!」


そしてテオは私の顔を両手で挟んで覗きこむと言った。


「ジェシカッ!お前の・・・お前の望みをアカシックレコードに訴えるんだっ!!」


「わ・・・・私の・・・望みは・・・・。」


そう、私の・・・心から望んでいる事は—。


私はアカシックレコードに望みを唱えた・・・・。





「ジェシカ・・・・ジェシカ・・・。」」


誰かがすぐ側で私の名前を呼んでいる・・・。誰・・・?


「ジェシカッ!目を開けろっ!俺だっ!テオだよっ!!」


え?テオッ?!


一気に私の意識が覚醒し、眼を開けると私を抱きかかえて覗き込んでいるテオがいた。


「テ・・・テオ・・・・?」


震える声で名前を呼ぶ。


「ああ・・・俺だよ、ジェシカ・・・。お前のお陰で・・・帰ってこれたよ。」


「テオ・・・・。お帰りなさい・・・。」


私の目にみるみる涙が溢れて来る。


「ただいま。ジェシカ。」


そしてテオは強く強く私の事を抱きしめた—。



 

 今私とテオは『ワールズエンド』の『神木』の前に座っている。精神世界に行っていた為か、私もテオも疲弊しきっていたからだ。けれど不思議な事にこの『神木』の側にいるだけで、身体に気力が戻って来るのを感じる。

初めは会話する気力も無かった私達であったが、ようやく会話を交わせるまでに体力も戻っていた。


「ジェシカ・・・。お前は・・・この世界の人間じゃ・・・無いんだろう?」


テオが私に話しかけてきた。


「うん・・・そうだよ。私は・・・エルヴィラによって別の世界からこっちの世界にやってきたの。テオも見たでしょう?4人のジェシカ達・・・。彼女達が正真正銘、本物のジェシカなのよ・・・。でも・・やっぱり本物のジェシカは・・綺麗だったな・・・。」


私は瞳を閉じて、精神世界で出会ったジェシカ達の姿を思い浮かべた。

やや釣り目ではあったが、紫色の瞳に・・・栗毛色の波うつ長い髪のジェシカは私ですら見惚れる程に・・・。


その時、突如としてテオが私を強く抱きしめて口付けをしたまま組み伏せてきた。

そのままテオは深い口付けをしてくる。

テオ・・・・。

私もそれに応えるように、テオの首に腕を回すと深い口付けに応じた。


やがてテオが唇を離すと私に言った。


「俺にとっては・・・・あのジェシカ達よりも・・・お前の方がずっといいけどな。だから・・お前の事をいつでも欲しいと思ってる。」


テオは真剣な眼差しで私を見つめる。


「わ・・・私は・・偽物のジェシカなのに・・それでも・・?」


するとテオは言う。


「ああ。前にも言っただろう?ジェシカ程・・・魅力的な女はいないって・・・忘れてしまったか?忘れたなら・・俺が今思い出させてやるよ。」


テオはフッと優しく笑うと、再び強く唇を重ねてくる。

そして深い口付けをしながら、テオが私の服に手をかけた―。


青白く光り輝く『神木』の前で私とテオは肌を重ねた。

テオの私に優しく触れる手が、口付けが泣けてくる程嬉しくて、途切れ途切れに愛していると囁いて来るテオの言葉が私の頭をとろけさせていく。

テオに抱かれ、甘い声を上げながら私は思った。

テオ・・・私も貴方を・・・愛しています。

ごめんなさい、マシュー。公爵。

今この瞬間・・・私の心は、身体はテオだけのもの・・・。


そして私とテオは『神木』に見守られながら、この日初めて結ばれた—。



『神木』からワールズエンドへ戻って来ると、驚くべき光景が広がっていた。

何と、壊れていたはずの『門』が以前と同じ佇まいでそこに存在していたのだから。



「え・・?嘘・・・・!どうして、門が・・・?」


「おい、ジェシカッ!あれを見ろ。」


テオが指さした先には・・大切な人達が集まっていた。エルヴィラ、アンジュ、ヴォルフ、そしてアラン王子、ソフィー、デヴィット、ダニエル先輩にノア先輩、グレイ、ルーク、魔界城で再会したレオ、ライアン、ケビン・・・。


「あ・・・あれは・・!」


私は息を飲んだ。

門のすぐ側には・・・マシューが・・そして公爵が立っていたのだ。


マシューは笑顔で私に手を振り、公爵は少し複雑そうな顔をしながら、私の事を見つめていた。


「マシュー・・・・。ドミニク様・・・・。」


彼等の名を呼ぶ私を見て、テオは意味深に言った。


「どうだ?ジェシカ・・・。『ワールズエンド』の門も・・見ての通り、無事に修復されたみたいだし、聖女ソフィーもこの世界に現れた。魔王だったドミニクはその魂を封じ込めて・・・人間として、再びこの世界に戻ってくる事が出来たんだ。」



「テオ・・・・?何故・・・その話を・・・?」


一方、アラン王子やデヴィットは何やらこちらに向けて叫んでいるが、エルヴィラに魔力か何かで引き留められているのか、誰一人私とテオから距離を取り、近付いて来るの誰もいない。

テオはそんな彼等を遠くに眺めながら言った。


「何故知ってるかって?だって俺の魂は・・・ずっと・・ジェシカ・・お前の中いたんだぜ?だから・・・俺は何でも知ってるんだ・・・・ドミニクとの事も・・そしてマシューとの事もな・・・。」


「テ、テオ・・・ッ!」


耳元でささやかれて、私は一瞬で顔が真っ赤になってしまった。

そんな私を遠くで怪訝そうに見つめるマシューや、公爵。一方のアラン王子やデヴィットは2人とは対照的に何やら怒っているように見える。


「嫉妬で・・俺はおかしくなりそうだったけど・・でも・・ジェシカはマシューに言ったよな?マシューの事も・・・ドミニクの事も・・・そして俺の事も愛してるって。最初はその言葉を疑ったけど、『神木』の前でジェシカを抱いた時、はっきり分かったよ。やっぱり・・・お前は俺の事を愛してくれてるんだなって事が・・・。」


「う、うん・・・。私はテオの事・・愛してるわ・・・。それに・・・。」


彼等に申し訳なくて私は目を伏せた。


「別にいいさ。ジェシカを責めるつもりなんか俺にはこれっぽっちも無いんだから。それよりも・・・ジェシカ。アカシックレコードに願ったお前の望みは・・叶いそうか・・・?」


え・・・?

テオの意味深の言葉に私はアカシックレコードに無意識で願った自分の望みを思い出した。

それは・・・神様にだってきっと願ってはいけない望みを—。














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