第9章8 魔界の封印
私と公爵は魔王城の玉座へと戻って来た。
「ドミニク様、これからどうするのですか?」
「ああ、まずはここにいる魔族全員に呼びかけてみる。今すぐ戦いを辞めるように・・・果たしてうまくいってくれればいいが・・・。」
そして公爵は私を見つめると言った。
「ジェシカ・・・。お前は今ここにいるとまずい。皆の元へ・・戻っているんだ。」
「でも・・・一人で大丈夫ですか?」
大勢の魔族たちがいるのに・・・もう、魔王ノワールは公爵の中で眠りについてしまったのに・・・彼ら公爵の言う事を聞くだろうか?
「大丈夫だ。ジェシカ・・・実は俺には魔王だった時の記憶が残っているんだ。だから・・・知っている。お前に酷いことを沢山してしまった事も・・・。本当に・・すまなかった・・・。」
公爵は私を抱きしめると髪に顔をうずめて悲し気な声で言う。
「・・・操られていたので・・仕方ないですよ。私は何一つ公爵の事を恨んだりもしていませんから。」
公爵の背に腕を回し、私は言った。
「ありがとう、ジェシカ・・・。俺なら大丈夫だから・・ジェシカは仲間と一緒に人間界へ戻るんだ。」
公爵は強く私を抱きしめてきた。
「え・・・ドミニク様・・・?」
「ジェシカ・・・さよならだ・・・。」
その言葉に顔を上げると公爵は私を見つめながら悲し気に微笑んでいる。
「ド・・ドミニク・・様・・・?さよならってどういう事ですか?」
公爵に縋りつくと見上げて尋ねた。
「俺は・・・・沢山罪を犯してしまった。人間界には・・・もう戻れない。ここで・・この世界で罪を償って生きていこうと思っている・・。だから・・最後にもう一度お前を抱いておきたかったんだ・・・。その願いもかなったし・・。思い残すことは何もないよ。今まで・・本当にありがとう。ジェシカ・・。」
「な・・・何を言ってるんですか?ドミニク様。貴方は・・・魔王でも魔族でもありません。人間ですっ!帰りましょう・・・私たちと一緒に・・!どうしても罪を償うと言うなら人間界で・・・償って下さい!ドミニク様、貴方が戻らないというなら・・私もここに残ります!」
半ば怒ったように私は公爵に訴えた。どうして?どうして皆そんな勝手な事ばかり言って・・・いなくなろうとするの?!
「ジェ、ジェシカ・・・?」
公爵は私の今までにない行動に戸惑ったかのように私を見つめる。
「勝手に・・・いなくならないで下さい・・。お願いします・・・・。ドミニク様の居場所は・・・魔界ではありません。人間界なんです・・・・っ!」
言いながら、思わず目に涙が浮かんでくる。
「ジェシカ・・・・。俺の為に・・泣いてくれてるのか・・・分かった・・。お前がそう言ってくれるなら・・俺は・・戻ってもいいんだよな・・?」
公爵も目に涙を浮かべている。
「はい、そうです。」
「分かったよ・・・。でも今ジェシカはここにいたら危険だ。これから俺は魔族たちをこの広間に呼び寄せる。魔族の男たちは・・・皆人間の女性に異常な執着を持っている。だから・・・ジェシカ。お前は先に皆の処へ戻っていてくれ。」
「わ・・分かりました。必ず・・・戻ってきてくださいよ?」
「ああ、必ず・・・学院に戻って来る。その時は・・・。」
公爵は私の両肩に手を置くと言った。
「その時は・・・?」
けれど、公爵はそれに答える事無く、唇を重ねてきた。そして私に言う。
「ジェシカ・・・皆と一緒に学院へ戻るんだ。」
「・・・はい。」
そして私は皆の元へ飛んだ―。
突如として私がエルヴィラ達の元へ戻ってくると、全員が驚いたように私を見る。
「ジェシカッ?!無事だったのか?良かった・・・!」
真っ先に私に飛びついてきたのはデヴィットだった。
「おい!デヴィットッ!ジェシカから離れろっ!」
いつものごとく声を荒げるのはアラン王子。
「そうだっ!ジェシカは僕の姫なんだからな!」
ついに私はダニエル先輩から見て、『恋人』から『姫』になったようだ。
「ジェシカ。僕は・・・誰かを愛した記憶があるんだけど・・・でもやっぱり君は特別な存在だよ?」
ノア先輩は笑顔で言う。
「ジェシカ。僕はいつだってカトレアと離婚してもいいよ?」
アンジュは飛んでも無いことを言ってくる。
グレイとルークはいつものように何か言いたげにしていても、アラン王子に遠慮して何も言う事が出来ない。
レオもジェシカのナイトは俺だと言い出す有様だ。
そんな彼らを見て私は思った。
ああ・・・これが私の日常。ここが私の住む世界・・・。エルヴィラは元の世界に戻ることは可能だと言っていたけれども・・・私はもうこの世界に長くいすぎてしまった。初めの頃は、元の世界に戻りたいと願ってばかりいたけれども、今の私はこの世界を・・こんなにも愛してしまっているんだ・・・。
「お前たち!いい加減にしないかっ!ジェシカ様が困っているだろう?!」
そこへエルヴィラが声を荒げて、ようやく全員がぴたりと静かになった。
すると私を見てエルヴィラが言う。
「ジェシカ様・・・何かお話があるんですよね?さあ・・どうぞ話して下さい。」
「はい。分かりました・・・。皆さん、聞いてください。ドミニク様は・・・魔王を自分の中に封印しました。もう二度と魔王は復活することはありません。そして、私に言いました。ここにいる魔族全員を集めて、今すぐ戦いを辞めて二度と人間界には手を出さないように説得すると言ってくれました。」
「ジェシカ様、その話は本当ですか?魔王・・いえ、ドミニク様はそう言ったのですか?」
エルヴィラが尋ねてくる。
「はい、確かに約束してくれました。」
私が言うと、デヴィットが鼻で笑う。
「ふん、そんな事信じられるか。何せ、未だに他の聖剣士やソルジャーたちは魔族たちと戦っているはずだぞ?」
「ああ、俺も信じられないな・・・。」
アラン王子が言いかけた時だ。
「いや。その話は・・事実だな。」
奥から聞き覚えのある声が聞こえてきた。え・・?そ、その声は・・・?
「ジェシカ・・・やっと会えたな。」
現れたのはケビンと・・・。
「今更だけど・・お帰り、ジェシカ。」
少し照れたように笑うライアンだった。
「ケビンさん・・・・ライアンさん・・・っ!」
私は二人の処へ駆け寄り・・・彼らの手を取った。
「良かった・・・二人とも・・無事だったんですね・・・。良かった・・。」
思わず泣きじゃくると、ケビンが私を抱き寄せて、髪を撫でながら言った。
「なんだ?ジェシカちゃん。そんなに俺に会いたかったのか?」
「おい!ケビンッ!何を言ってるんだっ!」
ライアンが声を荒げる。そしてずかずかと2人に近寄って来るのはデヴィットだった。
「おい!ジェシカに触るなっ!ジェシカは俺の聖女だっ!」
ケビンから無理やり奪い返す。
「ちょ、ちょっと・・・デヴィットさん・・・!」
折角の再会を喜んでいるのに・・・!
「おい、お前・・・はじめはジェシカの事を目の敵にしていただろう?」
ライアンが言うとデヴィットは言った。
「うるさい!俺は・・・!」
ああっ!また・・・何かデヴィットはとんでもない事を言ってきそうな気がする。何とか止めないと・・・!
「そ、それよりもライアンさん、ケビンさん!何が・・・あったんですか?」
「ああ、それが・・・突然俺たちが戦っていたら魔族たちが一斉に姿を消したんだ。」
「え?」
すると、その時・・・公爵の声が響き渡った。
「人間界、そして狭間の世界の者達・・・聞いてくれ。もう魔界の者達は二度と人間界にも狭間の世界にも手を出さないと誓う。この戦いは・・・終わりだ。今から魔界は何所の世界とも行き来が出来ないように封印する・・・。すぐにここから立ち去ってくれ。後5分で完全にこの魔界は封印される。早くいかないと・・閉じ込められるぞ。」
私は耳を疑った。
え・・?それって・・・・公爵はここに残るって事なの・・・?
その場にいた全員がざわめいた。
「ジェシカ様ッ!すぐ逃げましょう!私とアンジュで全員を・・・人間界へ転移させますっ!」
エルヴィラが私の腕を掴む。
「だ・・駄目よっ!公爵を残して・・行けないっ!」
「いいえ、行くのですっ!」
エルヴィラは強引に私の腕を掴むと叫んだ。
「ワームホールッ!!」
途端に視界はぐにゃりと歪み・・・・私は意識を失った―。
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