※第9章 7 魔王ノワールの封印(性描写有り)

く・苦しい・・・・。

魔王、ノワールは私の首を両手で締め上げてくる。呼吸が出来ず、ヒューヒューと口笛を吹くような音しか出てこない。


「や・・やめ・・て・・・ドミニク・・・様・・。」


必死で何とか言葉を絞り出すも、魔王は激怒する。


「うるさいっ!黙れ・・・!」


そしてますます締め上げる。

もう・・・駄目だ・・・。私はここで・・。

そう思った時、突如として私の紋章が強く光り輝き、一瞬魔王がひるんだ。


「な、何だ?!この輝きは・・・?!」


すると、それに反応するかのように魔王の・・・いや、公爵の右腕が強く光り輝き始めた。

その途端、公爵の腕が緩み・・・・私は床に倒れこんだ。


「ゴホッゴホッ!!」


激しく咳き込みながら肩で息をする私の後ろでは魔王が自分の光り輝く右腕を見て戸惑っていた。


「くそっ!何なんだ?!この光は・・・!お前・・・一体この俺に何を・・・!」


魔王は言いかけて、私の左腕も同様に光っている事に気が付いた。


「そ、その光る腕は・・・も・・・もしかして・・・お前が聖女だったのか・・?それじゃ・・この男は・・ひょっとして聖剣士・・・?」


魔王は信じられないと言わんばかりに私を見下ろしている。


「そ・・そうです・・。わ、私は・・ドミニク様の聖女・・・です・・。そして・・・ドミニク様・・・は・・・わ、私の聖剣士・・・。」


息も絶え絶えに魔王を見上げる。


「な・・・何て事だ・・・・っ!魔王の・・・この俺が・・・聖剣士だと・・・?!くそっ・・・!こんな紋章など・・俺の魔力で・・引きはがしてやるっ!!」


魔王は左腕を高く掲げ、自分の右腕に振り下ろそうとし・・・。


「駄目えっ!!やめてっ!ノワールッ!!」


私は魔王の名を叫び、彼の身体に縋りついた。すると互いの光り輝く腕がより一層強さを増し、辺りを真っ白に染めて・・・・私は見た。


その光の奥に、公爵の後姿が浮かんでいるのを・・・。


「ドミニク様ッ!!」


声を限りに私は彼の名を叫び・・・手を伸ばして、彼の右腕を掴んだ。


「ウワアアアアアッ!!」


途端に辺り一帯に絶叫が響き渡り、公爵が右腕を抑えて悶えている。


「ドミニク様っ?!」


慌てて駆け寄り、彼の傍に跪くと魔王は恐ろしい形相で私を睨み付けた。


「お、お前・・・一体俺に・・・何を・・したんだ・・・っ?!」


「え・・・・?何をって・・・?」


しかし、次の瞬間再び魔王は絶叫する。


「グアアアッ!よ・・よせ・・やめろ・・・!俺を・・・俺を消すな・・・っ!!」


え?消す?一体・・・何の事?

すると、徐々に魔王の右腕の輝きが、周囲に侵食していく。右腕を中心に今は胸元から膝まで激しい光を放ち続け、次第に魔王のうめき声が小さくなるにつれ、身体全身が光に包まれていく。


「ドミニク様っ?!」

一体、今魔王の身に何が起こっているの?ドミニク様は・・・どうなってしまったの?!


その時私の頭の中から声が聞こえてきた。


<彼を・・・ノワールを・・このまま彼の中で眠らせてあげて・・・。>


ま・・・まさか、その声は・・魔王ノワールの恋人だった・・・


「エ・・・エレノア・・・?」


その瞬間眩しい光の中で・・・金色の長いウェーブのかかった女性が私の前に立っていた。その顔は・・・。


「え・・・?わ、私・・・?」


そんなバカな。この女性は・・・髪の色こそ違うけれども、私にそっくりだったのだ。

その女性は光の中で微笑むと・・・苦痛の表情を浮かべている魔王の頬にそっと触れる。すると魔王の表情が和らぎ・・・何かを呟いた。

何と言ったのか聞こえなかったが、私にはわかる。きっと彼はこう言ったのだ。


「エレノア」と-。


やがて、光は徐々に収束していき・・・最後に光は小さな粒となり、公爵の身体の中へと消えていった。



「う・・・。」


倒れていた公爵が小さく呻く。ハッとなった私は急いで公爵の元へと駆け寄って顔を覗き込んだ。


「ジェ・・・ジェシカ・・・?」


顔を上げた公爵は私を見ると名前を呼んだ。


「ド・・ドミニク様・・・ですか・・?」


恐る恐る声を掛けてみる。


「ああ・・・。」


すると公爵は笑みを浮かべると身体を起こして、私を見た。


「ドミニク様・・・。」


気付けば私は涙を流しながら公爵の顔を見つめていた。


「ジェシカ・・・ありがとう。お前のおかげで・・・俺は再び戻って来れた。」


公爵は私の頬にそっと触れながら言った。


「ドミニク様・・・。よ、良かっ・・・・。」


私の言葉は最後まで語ることが出来なかった。公爵は私に口づけをすると言った。


「ジェシカ・・・お前を愛している・・。お前さえいてくれれば、この先俺はもう二度と・・・魔王を自分の中に眠らせておくことが出来る。だから今、ここで・・俺はお前が欲しい・・。」


切なげに訴えてくる公爵。

私は思った。彼は私の聖剣士で、私は彼の聖女・・・。誓いの儀式の本来の意味は・・魔王を封印する為の・・契りの事をさしていたのではないだろうか?


「ドミニク様・・・私と貴方が・・・契りを交わせば・・完全に魔王を封印出来るのですよね・・・?」


「ああ・・・そうだ。魔王を取り込んだ俺にはそれが・・・分かる。」


言いながら公爵は再び口付けしてきた。

それなら・・・私には拒む理由など何所にも無い。


公爵・・・。

私は公爵の首に腕を回し・・・彼に抱かれた―。



誰もいない不思議な宇宙のような空間・・・。

私は公爵の腕の中で言った。


「ドミニク様・・・。魔王の気配は・・・まだドミニク様の中に残っていますか?」


「ああ・・・・。ほんの僅かだが・・・残っているよ。でも・・もうどうにも出来ない程に弱っているのが分かるけどな。」

公爵は私の髪を撫でながら優しく微笑んだ。

じっと公爵の顔を見つめながら私は言った。


「ドミニク様・・・・。貴方の力を・・・まだ魔王としての力が少しでも残っているのなら・・・協力して頂けますか?」


「協力・・・何をすればいい?」


「『ワールズ・エンド』で破壊された門を修復するには・・・聖女と『狭間の世界』の王、そして・・魔王の力が必要らしいんです。だから・・・ドミニク様・・。貴方の力を・・貸して下さい。」


「ああ。断るはずは無いだろう?何故なら俺は・・・・魔族では無い・・人間なのだから。」


「でも・・・魔王が居なくなったら・・・魔界はどうなってしまうのでしょうね?」


「さあな・・・。でもまだ魔族たちが俺を魔王と認めているなら・・・。」


公爵はそこで一度言葉を切った。


「認めて・・・いるなら・・・?」


「人間界には手を出さず・・・今後一切『ワールズ・エンド』には近付くなと命令するよ。最も俺の言う事を彼らが聞けば・・・の話だけどな。」


「その時は・・私に手伝わせて下さい。」


公爵の目をじっと見つめながら私は言った。


「ジェシカが・・・?」


「はい、私はアカシックレコードを持っています。これが手に入ったから・・・私は魔力を自由に操ることが出来て・・・グレイやルーク、そしてレオ・・・彼らの命を救う事が出来ました。」


「・・・・。」


公爵は黙って私の話を聞いている。


「そして・・ドミニク様。貴方を助ける事が出来ました。・・だから、私で出来る事なら・・・力になりたいんです。」


「ありがとう、ジェシカ・・・・。」


公爵は私を抱き寄せて口付けをすると、そっと身体に触れてきた。


「あと少しだけ・・・2人きりで過ごしたい・・。いいか?ジェシカ・・?」


公爵は今まで散々辛い目に遭ってきたのだ。だから・・私は少しでも公爵の望みを受け入れてあげたい。


だから私は瞳を閉じて、公爵にその身を委ねた。


彼に抱かれながら私は思った。


・・・この先、私はどうなるのだろう・・・?


門が元通りに戻ったら、私はこの世界に別れを告げて・・元の世界へ戻るのだろうか・・・?


けれど私の思考は、徐々に公爵との甘い時間に溺れるように溶けていった―。


















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