第8章 2 『狭間の世界』での再会
「・・・・。」
テオは黙って私から唇を離した。
「テ・テオ・・・。」
突然の出来後に目を見開いていると、テオが熱を込めた目で私の頬に触れながら囁いて来た。
「ジェシカ・・・愛してる・・。突然こんなことして驚かせてすまなかった。お前にしっかり抱きしめていてと言われて・・つい嬉しくて・・・!」
そして再びテオは私を強く抱きしめると、唇を重ねてきた。
「全く・・・こんな所で何をしているのかしら?」
その時、私達の頭上から女性の声が降って来た。え・・?そ、その声は・・?
テオも驚いたのか、私から唇を離すと上を見上げる。
「え・・・?お、お前は誰だ・・・?」
だけど・・・私はこの女性を良く知っている。
「フ・・・フレアさんっ!」
するとフレアは私を見ながら言った。
「全く、相変わらず騒がしい女ね・・・。でも・・よく来れたわね。アンジュが・・待ってるわよ?」
「ア・・・アンジュが・・・?」
「ええ。もう今回の騒ぎはとっくに私達も知っていたわ。・・・大変な事になっているようだけど・・・。ようこそ、『狭間の世界』へ。」
フレアは腕組みをしながら言った—。
「そ・・・それじゃ、お前は魔族の女だったのか?」
テオは生れて初めて見る魔族に驚いたのか。フレアを見つめた。
「ええ、そうよ。魔界の第3階層と呼ばれる場所に住んでいるエリート魔族なのよ。」
今私達はアンジュの待つ宮殿へ続く門を目指して森の中を歩いていた。
「フレアさん・・・。お腹の赤ちゃんの具合は・・・どうですか?」
「そうね・・・。多分順調よ。まあ何と言っても私とノアの子供だからきっと美しい子供が生まれて来るに決まってると思うけどね。」
フレアの言葉にテオは驚きを隠せない。
「な・・・何だって?!ち・・父親はノアなのかっ?!あ・・あいつはその事知ってるのか?」
するとフレアは言う。
「知ってるはず無いでしょう?だってノアは私の事覚えてなんかいないのだから。」
フレアの横顔は・・・何処か寂しげだった。
「フレアさん・・・。これから・・どうするんですか?」
私の質問にフレアは大きなため息をつくと言った。
「これからどうするって・・・・。私の事はどうでもいいわよ。まあ、もう魔界に戻るつもりは無いから、ここでこの子を産んで育てるつもりよ。ヴォルフが協力してくれるって言うからね。」
「そうですか・・・ヴォルフが・・・。」
私はその話を聞いても別に驚きはしなかった。きっとヴォルフは私を助けるために一時的に人間界へ来てくれただけで・・恐らくフレアさんの元へ戻ると思っていたから。
「ヴォルフ?ヴォルフって・・・誰だ?」
テオが質問して来た。
「ヴォルフは彼女と同じ第3階層に住んでいた魔族の男性なの。今は・・人間界に来てくれて、魔物達から私たちを守る為に戦ってくれてる。」
「そうよ、全く・・・ヴォルフの奴ったら・・・。『ジェシカの危機だから見過ごせないっ!俺はジェシカを助けに行くッ!』て言って人間界へ向かったんだから。全く私という者がありながら・・・。」
フレアはブツブツと文句を言った。
「お・・おい、そのヴォルフって男はもしかしてジェシカの事を・・・?」
テオは私を見ながら声を震わせて尋ねて来た。
「あ・・・あの・・・そ、それはもう前の話だから・・・、ほ、ほら。今はフレアさんだっている訳だし・・・。」
言えない。テオには・・・ヴォルフに愛を告白されたことがあるなんて・・・!
「ええ、そうよ。もうヴォルフは私の物。貴女なんかに渡さないからね?」
じろりと挑戦的にフレアは私を見た。
「勿論、分かってますよ。お2人の仲をどうこうするなんて思ってもいませんから。」
「ええ、当然よ。だってこの子の父親になってくれるって約束してくれたんだからね。」
「それは良かったですね。」
言いながら私は思った。全く・・・ヴォルフはフレアさんという伴侶?を手に入れたのに・・・皆の前で私にちょっかいを出して、揉め事を作ってくれて・・・。今度会ったら一度文句を言っておかないと・・。
「でも・・・呪いが解けたんですよね?良かった・・・。」
私は改めてフレアを見ると尋ねた。
「まあ、呪いは解けたけど・・・大きな代償は払ってしまったけどね。」
「代償・・・?」
私は首を傾げた。
「そう。私は・・魔族の呪いによって、危うくお腹の赤ちゃんを失いそうになったのよ。だから・・・自分の魔力を全てこの子に注ぎ込んで・・・この子は助かったの。だけど・・・私は魔力を失った。もう二度と・・魔法を使う事は出来なくなったわ。」
フレアさん・・・。
ああ、そうだったのか・・・。ヴォルフの顔が浮かなかったのは・・・そういう事だったんだ・・・。
「でも後悔はしてないわ。だって愛する人の子供は助かったんだもの。貴女だって魔法を使えないでしょう?例え二度と魔力が戻らなくてもちっとも後悔なんかしていないから。あ、門に着いたわよ。」
「それじゃ、行きましょうか?アンジュが・・・貴女を待ってるから。」
フレアの言葉に私は頷き・・・・3人で門の中を潜り抜けた—。
「ジェシカーッ!僕の愛しい人・・・やっぱり戻って来てくれたんだね?!」
宮殿に着くなり、 アンジュは誰が聞いても誤解されそう台詞を言い放ち、私に抱き付いて来た。
「お、おい!お前・・・ジェシカに何するんだっ?!」
驚いたのはテオだ。
何せ飛び切り美形の男性がいきなり私に抱き付いて来たのだから。
「ハア?何だい。君は・・・。ジェシカ。又君は違う男をこの世界に連れて来たんだね?」
「何?違う男?前回は誰を連れて来たんだ?ジェシカ・・・。」
テオは縋るような眼つきで私を見つめて来る。
ああ・・・全くアンジュは・・・誤解される言動ばかりして・・・。
「ア・・アンジュ。カトレアさんとの結婚はどうなったの?」
「ああ、彼女ね。もう僕の妻だよ。今日は実家に里帰りしてるんだ。と言うか・・・愛しいジェシカが来るのが分かっていたから、急遽カトレアには実家に戻って貰ったんだ。」
言いながら、挑発的な目でテオを見つめる。
「アンジュッ!もうからかうのはいい加減にして!テオも・・・彼の言う事は気にしないでね?」
アンジュを押しやりながら私は言った。
「あ・ああ・・・分かったよ。ジェシカ・・・。」
今、私達はお茶をご馳走になりながら話合いをしている。
「とにかく門を修復しない事には、いつまでたっても人間界に魔物が現れるのを止める事は出来ないね。」
アンジュは紅茶を飲みながら言う。
「アンジュ。門はどうすれば修復する事が出来るの?」
私が尋ねるとアンジュが言った。
「そうだね・・・。修復するのはもう無理だから・・・新しく作り直さないと無理なんじゃ無いかな?」
「作り直す・・。ただ単に似たような門を作って、鍵穴を付ければいいのか?」
テオが尋ねる。
「いや、そんな簡単な事じゃない。門には3つの保護を掛けないと・・・封印の機能は働かないよ。」
「3つの保護・・・?」
私は首を傾げた。
「そう、3つの保護。まず一つは人間界の聖女の祈りの保護、2つ目は『狭間の世界の王』・・つまり僕の保護、そし3つ目は魔族の王の保護・・・この3人の力が必要だね。」
アンジュの言葉に私は絶望的な気分になった。
「聖女のソフィーは今何処にいるか行方が分からないし・・・魔族の王なんて・・・今は居ないんじゃなかったの?」
するとフレアが言った。
「あら、魔族の王なら・・・もう現れたわよ。人間界にね・・・もっとも今は魔界にいるみたいだけど?そうよね、アンジュ。」
「うん。そうだよ。彼が・・・新しい魔族の王だよ。」
そしアンジュは空中に直径1m程の大きな球体を出現させると言った。
「ほら。彼が・・・新しい魔族の王だよ。」
その球体に映しだされた人物は・・・。
「ド・ドミニク様・・・・・」
私は信じられない思いで映像を見つめた—。
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